秘書室の言えなかった言葉
次の日の朝――…


昨日の佐伯さんの言葉、知里の寝言が気になって仕方がない俺は、その事を考えないように、リビングで仕事をしていた。


ガチャ――


寝室のドアが開いた音がした後、


「おはよー」


少し辛そうな知里の声が。

俺は振り返り


「おはよう」


と、返事をする。

だけど、知里の顔を見た瞬間。

昨日の言葉を思い出し、パッとそらしてしまう。


もし、知里が今でも佐伯さんの事が好きならば……

でも、俺は知里を手放したくない。

だけど……


俺の頭の中でぐるぐると回る。

その考えが頭から離れず、知里にどう接したらいいのかわからなくなっていた。

俺の側で何かを探している音が聞こえたかと思うと


「英治、水貰うね?」

「ん?あぁ。……、しんどいのか?」


俺は知里が手に薬を持っている事に気付く。


さっきも、少し辛そうだったからな……


「しんどいって言うか……。ちょっと頭が痛くて……」


そう言って、知里はキッチンへ向かう。


二日酔いか……


俺もキッチンへ行き、食器棚からグラスを取り出し知里に渡す。


「はい、グラス」

「ありがとう」


知里はグラスを受け取ると、ミネラルウォーターを注ぎ、薬を飲む。

そんな知里を見ながら


「知里、お酒飲めないのに。昨日は飲み過ぎだよ……」


そう言って、俺はため息を吐く。


< 89 / 131 >

この作品をシェア

pagetop