秘書室の言えなかった言葉
「何で、あんなに酔うまで飲んだんだよ」

「……飲みたかったから?」


何故、疑問形?


そう思ったが、そこには触れず


「飲みたいって限度があるだろ」


そう言うと


「ごめん……」


知里は謝り、しゅんとする。


「なぁ……」

「ん?」

「何で、“飲みたい”って思ったんだ?」

「えっ?」


俺の質問に知里は慌てる。

そして、


「何で?」


答えるのではなく、聞き返してくる。


「何でって……。いつもほとんど飲まない知里が、あんなにフラフラになるまで飲むなんておかしいだろ」


俺はつい口調がきつくなる。

だって、いつも飲まない知里が“飲みたい”と思った理由と、寝言で佐伯さんを呼んだ事とが関係あるとしか思えないから。


なぁ……

なんで、ちゃんと話してくれないんだよ。

ちゃんと話して、俺の事を“好き”と言ってくれよ。


だけど、知里は黙ったまま。

だから、俺は


「知里さ、何か隠している?」


そう聞いた。


「えっと……、何で?」


その言葉に、やっぱり知里は動揺する。

そして、話そうとしないし、誤魔化そうとする。


「佐伯さんが来てから、様子がおかしいから」


だから、俺ははっきりとそう言う。


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