恋をした悪魔
森に住む盲目の画家の存在は、不思議と、しかし自然に、
街という街に広がっていきました。
光を失ったはずの彼が描く美しい女の絵は、危ういほど儚く、
それなのに確かにそこにいるような温度があり、人の心を打ちます。
彼の絵を求めて森へ尋ね来る人々は、皆一様に問いました。
「なぜ、目の見えないあなたが
こんなに素晴らしい絵を描けるのですか?」
彼はいつも柔らかい笑みで、こう答えました。
「見えるんですよ。彼女のことだけは」
青年は、絵を描き続けました。
街では彼の絵に大変な高値がつけられていましたが、
彼が大金を受け取ることはありませんでした。
森の奥で、ひっそりと、ひたすらただ1人の女を描き続けました。
そうして日々を過ごした青年は、老いて最期の時を迎えました。
色とりどりの実がなる木に寄り添い、幹を愛しげに撫で、
深い皺の刻まれた頬に笑みを浮かべると、静かに目を閉じました。
彼の腕に抱かれた一枚の絵の中には、小さな額を手に
ふわりと微笑むリリスの姿がありました。
End


