恋をした悪魔
青年は、驚きました。
真っ暗な闇の中に、鮮やかな色が浮かび上がってきたのです。
何も見えなくなったはずなのに、木に生った実の色だけは、
たしかに、はっきりと見えます。
すっかり干からびた手を伸ばして赤い実を摘んでみると、
簡単に潰れて、見たままの赤色が指を染めました。
青年は、その感触に覚えがありました。
青、白、黄、緑……見える全ての色の実を摘んだ青年は、
しばらく開くことのなかった扉を、はやる胸を抑え開きました。
道具のありかは、この場所に馴染んだ体が覚えていました。
実を潰し、それを筆で拾い、キャンバスに乗せて。
時間を忘れ、夢中で動き続けた手が止まったとき、
青年の目の前には、長い黒髪の、色白な、笑わない、
けれど愛しい愛しい女の姿がありました。
――あなたは、絵を描き続けて。ずっと、ずっと……
「ああ、もちろんさ。君が望むのなら!」
リリスの残した願いは青年の希望となって、
彼の心を蘇らせたのでした。