抹茶な風に誘われて。
「と、とにかく配達しなきゃ」

 気にはなりながらも、お花を待ってる亀元さんに早く届けるために私は自転車を停めた。

 カゴからゆっくりアレンジを取り出したりしている間に、いつの間にか優月ちゃんはいなくなっていて。

 そのまま目的のテナント、地下一階に続く階段を下りようと一歩足を踏み出した。

「きゃあっ」

 あわて過ぎ階段を踏み外しそうになった私の腕を、誰かがぐんと強く引いた感覚があって。

 驚く間もなくちゃんと地上に引き戻してくれた。

 その人物の顔を見る前に背後から振ってきたのは、嬉しそうな歓声だったのだ。

「あらあら、やっぱり! かをるちゃんかもって思ったのよ~! どうしたの、こんなとこで! ってそうか、配達ね!」

 低音の女性言葉で話しかけてきたのはハナコさんだった。

 しっかり助けてくれた腕の力とは裏腹に、今まで見たことのあるスーツや着物姿じゃなく、夜のお仕事用の服装に身を包んでいる。

 そのゴージャスな首飾りや胸の開いたロングドレス――っていってももちろんその胸は平らなんだけど――を思わず見つめていたら、ハナコさんがじゃらんと重なったブレスレットから音をさせながら私の背中を叩く。

「やーね、そんなに見られたら照れるじゃなあい! そっか、かをるちゃんはお店でのあたしをまだ見たことなかったかしらね」

「あっ、はい……あっ、えっと、助けてくださってありがとうございました。おかげでお花も無事でした!」

「まあまあ、お花って、まずはかをるちゃんの体が一番でしょう? あいかわらず無垢なんだからっ。んもう、可愛すぎ!」

 ぎゅう、と抱きしめられて固まっていたら、「あらーっ? ハナコ姉さん! 何その子?」とこれまた野太い声が聞こえてきた。

 ハナコさんのたくましい腕から解放されて振り返ると、駆け寄ってくるのは同じようにお化粧やドレスで着飾った男の人たちだった。

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