抹茶な風に誘われて。
「通りであんまり騒いでると、いくら野良でも保健所に連れて行かれるかもしれないからな。やんちゃが過ぎる猫たちに、ちょっと忠告してやっただけだ」

 長めの黒い前髪を浅黒い指で押し上げて、静かに言う。

 麻の着物の裾が、少し涼しい夕方の風にはためくのも風情たっぷりに見えた。

 優月ちゃんも女の人も、さっきまでの勢いはどこへやら、はっと気づいたようにぐしゃぐしゃになった髪や乱れたスカートの裾なんかをあわてて直している。

「わかったら、さっさと自分の住処へ帰ること。いいな?」

 表情のないまま見下ろされて、二人は真っ赤になって頷く。

 あれほどけんかしていたはずなのに、お互いには見向きもせずに背を向け合って、一人は近くのお店の扉へ、そして優月ちゃんはふらふらと駅の方角へ帰っていった。

 感心したように手を叩いたり、口笛を吹いた人たちも、静さんがちらりと見ただけであわてたように立ち去り、散らばっていく。

「さっすが静ちゃん! 見事なお手並みよねえ」

 ハナコさんがそう耳元で囁いて初めて、私は自分までも赤い顔をして固まっていたことに気づく。

 見惚れてしまっていたことに気づかれるのが恥ずかしくて、思い出したお花を手にムーンリバーへ走る。

「ちょっと、かをるちゃん? 静ちゃんに会ってかないのお?」

 追いかけてきたハナコさんの言葉にはお辞儀だけ返して、私は遅れた配達を済ませるほうを選んだのだった。
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