抹茶な風に誘われて。
 どうして会わなかったんだろう。

 帰ってからも何度も自分に問いかけたけれど、答えは出なかった。

 もちろん配達のためでもあったけれど、それよりもまず、静さんに会うのが怖かった。

 ――怖い? どうして怖いの?

 自分に訊ねてみてもわからない。

 静さんが怖いんじゃなくて、あの時の自分の感情が怖かったのかもしれない。

 そう思えたのは、眠る前のほんのひと時、ベッドの中でのことだったけれど――。

 みんなが注目して、たった今までけんかしていた女の人たちまで黙らせて、そして見惚れさせてしまう。

 そんな静さんにどきどきしたのは確か。

 けれどそれよりもなぜか胸がちくちく痛むような変な気持ちだった。

 いつも見知った仲間の人たちと、静さんのお宅でしか会っていなかったから、大勢の前で注目を浴びている静さんを見たのが初めてで。

 改めて静さんはやっぱりかっこよくて、素敵で、みんながそう思うんだってことがわかった――から?

 あんな風に堂々とその場をおさめたり、女の人たちを黙らせたりする静さんが、自分だけのものじゃないみたいに思えた、からかもしれなかった。

「や、やだ……もともと、静さんは私のものとかじゃないのに」

 ――何を勝手なこと考えているんだろう、私ってば。

 頭を振って、瞳を閉じた。

 携帯電話を枕元に置いたまま、いつの間にか眠ってしまった私は、その時はまだ知らなかったんだ。

 さっきの騒動が、全ての始まりだったことなんて。

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