抹茶な風に誘われて。
 バッグを落としたまま来てしまったから、電車にも乗れず、私は結局一駅の距離を歩いて帰った。

 幸いというか、なんというか、携帯電話だけはポケットに入っていたけれど、私はわざと静さんからの電話に出なかった。

 目を閉じても何度も何度も優月ちゃんと静さんの顔が重なってしまったあの瞬間を思い出して、どんどん混乱してしまったから、出られる状態ではなかったのだ。

 ずっと答えない私にやきもきしたのか、静さんから『今からそっちに行く』とメールが来たけれど、私は一瞬迷ったものの、断った。

 葉子さんやおじさんが心配するから、来ないでほしいと書いて送ったら、しばらくしてから『明日話そう』と返信が来て。

 もうこれ以上何も考えたくなくて、私はシャワーしてすぐ眠ってしまった。

 翌朝起きても気分は重いままだったけど、体は元気だったから登校した。

 どんな顔で優月ちゃんと顔をあわせたらいいのかすごく悩んでいた私は、朝一番に欠席の知らせを聞いて思わず拍子抜けしてしまった。

 咲ちゃんもまだ風邪でお休みのままで、私は仕方なく普通に授業をこなし、割り当てられた時間に文化祭の準備作業をした。

 いよいよ週末に迫った文化祭のために、作業は色々ある。

 おばけ屋敷の内装、小道具、衣装、そしておばけの配置の仕方、などなどを話し合うみんなの意見を私はひたすら聞いていた。

 ともすれば昨夜の記憶を思い出そうとする頭を、違うところに向けることで、どろどろした気持ちに蓋をしようとしたのかもしれない。

 ――静さん、あの後どうしたのかな。

 それでも時折思い巡らせてしまって、あわてて首を振った。

 作業に集中しようと、小道具作りに参加することにした。

 けれどおしゃべりするみんなの中に入っていく元気はどうしても出なくて、ただ無言で黒や銀の紙を切ったりしているうちに、ぼんやりしてしまう。
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