抹茶な風に誘われて。

Ep.10 静―調査

 夜、バイトが終わってから、自転車でやってきたかをるは買い物袋を提げていた。

 中から出てきたネギや大きなかぼちゃ、じゃがいも、といった野菜の数々に目をやると、誇らしげに笑う。

「これ、葉子さんの実家から送られてきたお野菜なんです。たくさんあるから、静さんにもぜひって葉子さんが」

 昨日二人で会ったことなど知らないらしいかをるが、にこにこしながら野菜を台所へ持っていこうとした。

 重いからと袋を取り上げたら、「私、結構力あるんですよ? 花屋のお仕事は、プランターとか鉢とか重いもの持つから」なんていたずらっぽい声が追ってくる。

「ほう。力ねえ――」

 ならば、といたずら心のままに袋を置いて、かをるを腕におさめた。

 華奢そのものの体を抱きしめて、自覚済みの意地悪な微笑を浮かべてやる。

「それなら、こんな腕ぐらいすぐにはらいのけられるだろう?」

 すぐ近くで驚く瞳を見下ろして訊ねると、かをるは瞬く間に頬を染めて、俯いた。

「ず、ずるいです……すぐこうやってからかって」

 わかりやすい反応を楽しみながら、滑らかな頬にかかる髪を優しくはらって、囁く。

「こんな腕の中から逃げられないようじゃ、力があるとはいえないな」

 そのままキスに持ち込もうとしたら、かをるは一瞬だけ苦しげに瞳をそらした。

 思わず力をゆるめた俺の腕からするりと抜け出し、気持ちを悟らせないためか、わざとらしい笑顔をはりつけて顔を上げる。

「静さん、お夕飯まだだって言ってましたよね? 私、簡単なものなら作りますから、一緒に食べましょう」

「あ、ああ……それはかまわないが」

 答えた言葉を聞くなり、台所へ入ったかをるが、持ってきたらしいエプロンを付けて野菜を洗い始める。 

 一応自炊はしている俺に味噌やしょうゆの在り処だけ確認して、手早く料理にとりかかった姿に内心感心した。

 仕事で昼食も遅かったから気にはならなかったはずが、漂ってくる匂いに空腹が刺激される。

 さりげなく盗み見た横顔は時折かげっていて、昨日藤田葉子が話したことが事実であるのが確信に変わった。
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