抹茶な風に誘われて。
 昔の俺なら、手ひどく遊んで捨ててやるとか、二度と自分の顔など見たくもない、もしくは見られないような状況にして追い払うことだって簡単にできた。

 ホストだった時代など、手段を選ばずなんでもやったから――そういう風にしてやりたいところを我慢して、相手にしないだけで通そうとしたのに。

 思ったよりも強気で、負けん気の強いというか、自信過剰というか、とに
かくキスまでしてくるとは思わなかったから、油断していた。


 それから連絡が途絶えて、電話をしても全く出ようとしないから、本気で別れたいのかと思った。

 もやもやとしていたところにしゃしゃり出てきた駄目元や香織が、「かをるちゃんは潔癖だろうからなあ。許せないんじゃないの~?」だとか、

「やっぱ本当の恋ってのを知らないわけだから、他の女とのキスなんて見て、冷めちゃったのかもよ」だとか、

 挙句の果てにはハナコまで「かをるちゃん、可愛いから結構お店でも人気らしいわよ。お客さんでも、通いつめてる人多いみたいだし。全然気づいてないところがかをるちゃんらしいけどねえ」だとか抜かすから、あいつらにそそのかされるままに学校まで出向いてしまったのだ。

 ――くそ。今から思えばはめられたことなど明らかなのに。

 後悔してみても時既に遅しで、かをるに対しても照れくさい行動だった。

 まあ結果として、店の客だったらしいストーカー男に襲われそうなところを助けられたのはよかったのだし、二人の間の誤解も解けたのだからと自分を納得させていたら――まさか、いじめなんていう低レベルな反撃に出ようとは。

「あの女、どうしてやるかな」

 無意識に口に出しながら、携帯電話を眺める。

 ストラップなど付けない、買ったままのシンプルな白を見つめて、かをるの番号を表示させた。

 まっすぐで強い、彼女の瞳を曇らせるものは、誰であろうと許せる気がしなかった。
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