抹茶な風に誘われて。
「花よりも本当はこっちが先だろう? ほら、好きだったビール」

 缶のプルトップを開け、置いてやると、まるで待ち構えていたように取り上げる婆さんの姿が目に浮かぶようだった。

 立派な茶を点てる時とは別人のように、酒豪だった婆さん。

 ふらりと来店しては、うるさく喋りかけてこないからと俺を指名した、伝説の最高齢客――死んでも墓参りになんて来るな、と豪語していた彼女に会いに来たのは、ただ一つの報告のため。

「あれだけ会いたがってた旦那と再会して幸せなんだろうから、長居するような野暮はしないよ」

 そう呟いて、もう一つ持ってきたビールの缶を乾杯するように軽く打ち合わせた。

『生涯飽きないような相手を見つけること、それが人生を楽しく生きるコツだよ。あんたにできるかい――?』

 最後に会った時、彼女が俺に言った言葉。

 いつまでも少女のように自分を飾り、赤く紅を引くことを忘れなかった婆さんを思い浮かべながら、俺は微笑んだ。

「俺には必要ないと思っていたんだが……婆さんの遺言に従うのも悪くないような気がしてね。それだけ、言いに来たんだ」

 袂に感じる丸い形を指で確かめると、長い寄り道を終えるべく立ち上がる。

 今日これから繰り広げる二度目のパーティー、それは先日の騒動より面白くなることだけは確実で。

 緑の山々を遠く眺めながら、俺はいつしか表情を引き締めていた。
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