抹茶な風に誘われて。
「まあどっちでもいいよ。俺はかをると過ごせればそれで満足だし」

 突然後部座席から身を乗り出してきたアキラくんの声に、優月ちゃんが嫌そうな顔をする。

 最初は彼女にと立候補までしていた優月ちゃんも、いつの間にか私を彼から守るように咲ちゃんと協力してくれていて。

 班が同じになったのは、あくまでくじ引きの結果だったから仕方がないと咲ちゃんも謝ってくれていた。

「ほんっとにあんたもめげないねー。だからかをるちゃんには静先生っていう立派な婚約者がいるわけ。そうやって昔馴染み作戦で接近しようとしたって無駄なの。わかる? いい加減あきらめて真面目に勉強でもしてなって」

「優月の口から出てくる言葉とは思えないけど……あたしも同感だな。白井くんが純粋な興味で交換留学に来たのかどうかしらないけど、この旅行が終わったらもうあっちに戻るんでしょ? いい思い出作ったら、あとはアメリカに戻って自分のために頑張ったほうがいいと思うよ。何せ――」

 白井グループの次期社長になるんでしょ、と言いかけたのだろう言葉を飲み込んだ咲ちゃんが、曖昧に笑う。

 まさにそれが目当てなのだろうと私にでもわかる、他の女子たちが通路越しに喋りかけてきたからだった。

「ねーねー、アキラくん。このチョコ食べない?」

「あたしの限定紫いもタルト味、結構イケるよー。はい、あーん」

 どの子も自分のお菓子を受け取ってもらおうとして、必死なのが誰の目にもわかる。

 自然を装って彼女たちがアキラくんの関心を買おうとし始めたのは、彼が白井グループの社長子息だと噂になってすぐのことだった。

 私が優月ちゃんたちに付き合ってもらって、みんなの前でちゃんとアキラくんと付き合ったりするつもりはないこと、彼も冗談で言っているだけだということを説明したのも大きかった。

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