抹茶な風に誘われて。
「私も、戻ってくるつもりは毛頭ありませんでしたよ。こんな重苦しい屋敷はまっぴらだ。あの茶室だけは、まだ訪問の価値がないとは言いませんが」

 正直過ぎる返答で私がはらはらするのをちらりと見て、眼鏡の奥から斉藤さんがそっと耳打ちする。

「要約すると、静様は時々社長とお茶を飲みになら帰ってきてもいいと――そう仰っているのですよ」

「……えっ? そ、そうなんですか?」

 驚く私の隣で、静さんが咳払いをする。

「ただ、茶を飲みに来るだけだ。あの菓子も結構うまかったからな」

 言い訳のように響いた言葉で、斉藤さんがうんうん、と頷く。

「静様は昔から月見庵の生菓子がお好きでいらっしゃいましたから。本当に、性格と味覚という、変えるのが難しいところだけはお父様とよく似ておいでで」

 真面目な顔なのにどこか楽しげな声音で、肌の色の違う親子が同時に嫌そうな顔をする。

 その表情までがそっくりで、私は思わず声を立てて笑ってしまった。

「あなたも、まるで花咲くような笑顔があの方によく似ていらっしゃいますよ」

 呟いた斉藤さんの言葉は、あわてて笑いをおさめる私の耳には届かなくて――渋い顔をした二人に怒られるかと身を縮めたら、はらりと紅葉の葉が振ってきた。

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