抹茶な風に誘われて。
「一分一秒たりとも愛する婚約者と離れたくないんだろう? 一人にしたお詫びだ。何? もっと? 仕方ない奴だな……」

「せ、静さんっ……私、そんなこと言ってませ」

 全部言わせる前にまた可愛らしい唇をふさぐ。

 抵抗するようにじたばたしていた体は、抱きしめられたことですぐに大人しくなった。

「これからは、たっぷりと可愛がってやるから覚悟しておけよ」

 囁いた言葉は、耳たぶを軽く噛んだ俺の行為で聞こえなかったようで。

 何度も角度を変えて繰り返されるキスに、無意識なのか瞳を潤ませるかをるは、それがまた俺を誘っていることにさえ気づいていない。

 降りしきる紅葉の赤に負けぬくらい染まった頬を引き寄せて、傘の中で濃密な挨拶を堪能する。

 左手の薬指にはめられた指輪の感触を確かめながら、二人の未来を思い描くなどという――性に合わぬ行動をしている自分に、心の中で苦笑していた。
   
 
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