抹茶な風に誘われて。

Ep.15 進路

 私と静さんにとって色々な出来事が続いた秋も終わり、気づけば暖かいお茶がおいしく感じる季節。

 冬休みに入って一日の大半を花屋のアルバイトで過ごすのも、二週間目を数える。

 そんな折に舞い届いた知らせは、一条家初釜のご招待だった。

 茶道を習っている人にとっては常識の単語も私にはわからなくて、静さんに教えてもらった初釜の意味。

 それは新しい年を祝い、お正月に初めてかける釜のことで、つまりは新年最初のお茶会だという。

 一条家では流派の方々もお招きして、二日後の八、九、十日の三日間に盛大に行われるのだとも説明してくれた。

 そんな正式な行事へのお誘いに呼ばれたことで途端に緊張していた私は、あっさりと不参加の返事を出す静さんに拍子抜けしてしまった。

「どうしてお受けされなかったんですか? やっぱりまだお父様のこと……?」

 不安な気持ちで訊ねた私の頭を軽く叩いて、静さんは笑みを浮かべた。

「そういうわけじゃない。仕事が続いてて、ちょっと忙しいだけだ」

 答えを聞いて納得する。

 というのも、最近ますます本業の翻訳に加えて茶道関係のお仕事が増えているから、特に年初めは多忙を極めるのも無理はなかった。

「それに――あの頑固親父なら、別の日にちゃんと会うことになってる」

 心配するな、と頬に口付けられて、私はつい疑問を顔に出してしまったらしい。静さんが意味ありげな顔で囁いた。

「どういうことかは、またその時わかるさ」

 秘密主義なのか、単に悪戯好きなのかわからない、大人なくせに子供な静さんらしい言葉。

 抗議しようと開きかけた唇は、また奪われてしまう。

「せっ、静さん……みんなが」

 隣の部屋でいつものメンバーがわいわい語り合っているというのに、まるで気にせずキスを続ける静さん。

 最近こういうことが増えて、困惑しながらも私が拒否できないことをちゃんと知ってるのだ。
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