「愛してる」、その続きを君に
「ナ…」
「一人で帰れるから!それに信ちゃんだってお腹すいてるでしょ!おばさん、待ってるよ」
風に乗って踏切の警報機の音と、電車が古びた枕木を軋ませて走る音が耳をかすめた。
夏海はふうっと大きく息をついて信太郎を見やると、彼はうつむき加減でしきりに鼻を触っている。
困ってる、それはすぐにわかった。
信太郎は女の涙にはめっぽう弱い。
悪いことしちゃったな、彼女は慌てて頬を拭った。
そこに風が当たってひんやりする。
「ごめん、おばあちゃんがいなくなってから私、情緒不安定気味なんだよね。見なかったことにして。忘れて。ね?」
「……」
「じゃあそういうことだから。ここでいいよ、ありがとね、送ってもらって。また明日ね」
コツコツと革靴の音が坂道に響き渡る。
うつむいたままの信太郎の横を通り過ぎた時だった。
「なに!?」
腕を強くつかまれ、一瞬後方に引き戻される感覚があった。
驚いて振り返るも、彼は後ろ手に彼女をつかんだまま、背を向けている。
じんわりと熱くなる彼の手の触れる場所。
「信ちゃん、どうしたの…」
ただならぬ様子の彼に、夏海の心はざわめきだした。