『うさぎ』日記
その晩、縄を打たれたままの小僧は
涙に濡れ眠れない夜を過ごしていたの。
それは悲嘆に暮れ、咽び泣く母の声が、
遠い闇を隔てて夜風にのり、
牢屋敷内の小僧の耳へと
届いていたからなのよ。
そして母親は、あまりの悲しみの大きさに
ついには発狂してしまう。
翌日、小僧は目を真っ赤に
泣き腫らしたままの姿で、
鹿の死体を体に縛り付けられ
境内に掘った穴の中に放り込まれると、
石子詰めの刑に処せられたの。
頭の上から小石が、雨、あられと
降り注ぐなか、激しい痛みと苦しさのあまり、
小僧が両手を空に向かい突き出し、
小石を掻き出そうとすると
忽ちに指先の爪は剥がれ落ち、
血が噴き出してしまったわ。
そのまま、ほんの数分で
小僧は息絶えたそうな。
それから夕刻になり、
気が狂れた母親がモミジの枝を
振りながらやって来たの。
くるくるっとモミジの実が、
風に揺れ舞い、そして散り落ちたわ。
その時、ふっと小僧の声が聞こえた様な
気がした母親が振り向くと、
ななっ!何と、ジャリで埋まった穴の上には
血で赤く染まった指先をぱっと広げた、
小僧さんのモミジのような小さな手が2本、
生えとった。