太陽と雪
トラックに強くぶつかられたことで、ほぼ即死だった。

私は、事前に藤原によって、別の車に移されていた。

だから、怪我は一つも負わなかった。


車を停めた先のホームセンターの駐車場で、車の窓越しに事故を目撃した。

急いでシートベルトを外して、藤原のもとに駆け寄ろうとしたが、運転手に止められた。


「藤原っ……!
目を開けなさいよ、バカっ……!」


なんとか運転手の静止を振り切って、藤原のもとに駆け寄った。

私が近くでそう言うと、一瞬だけ薄く目を開いた彼。

掠れた声で、私の名前を呼んだのだった。

それが藤原の最期の言葉だった。


「あや……おじょ……さまっ……」


それからすぐ、ゆっくりと目を閉じた藤原は二度とその目を開けることはなかった。

それと比例するように…私が握った彼の手も温度を失っていった……

私はそれから数日後……鑑識の人に聞いた。


「藤原の……死因は?」


返ってきた答えは、絶望と悲しみの底に私を叩き落とすものだった。


「遺体の損傷が激しく、詳しい死因は特定できません」


だけど……カガク捜査官のパパに聞いた話によると、恐らくトラックに強くぶつかったことによる内臓破裂。

圧死だろうって言われた。

さらに、トラックを運転していた人は多量の酒を飲んでいたらしい。

何が『詳しい死因は特定できません』よ。

警察のくせに。
それが一番ショックだった。

警察は役立たずだから、私が鑑識になろうと思って……

パパやママに無理を言って、アメリカに行った。


鑑識の過程で……法医学の免許も取った。

医師免許は、流石に文系の脳では理解しきれなくて諦めたけれど。

そちらの線は、弟の麗眞の友人である女性に任せることにした。

何度か宝月の屋敷にも足を運んだことがある女性で、私と面識もある。

確か、理名という名前だった。
彼女の母親は確か看護師であったはずだ。

しかし、彼女が中学生の時に、ガンで命を落とした。

救いたい命がたくさんあったはずだ。

志半ばでその人生を終えざるを得なかった母の背中を、必死で追っている子だった。

彼女も医師になるべく、勉強を重ねていたという。

麗眞から、そんな話を時々聞く。

今は、研修医として多忙な日々を送っているらしい。

「彩ちゃん?
やけにボーっとしているが、大丈夫かい?
具合でも悪いのなら、帰っても良いんだよ」

上司の声で、我に返った。

危ない、危ない。
上司は、私が"圧死"に対してある種のトラウマが
あることを知らない。


「具合悪いなら……帰って休んだほうがいいよ。

身体が資本だ。

身体が元気じゃないと、やりたいこともできないからね。

また何か聞きたいことがあれば電話するから」


お言葉に甘えて帰ることにした。

「失礼します。

お手間を取らせてしまった上にあまりお役に立てず、申し訳ありませんでした」

上司に会釈してからしばらく歩く。

矢吹に連絡しようと携帯を取り出した刹那、私の隣にリムジンが停まった。

運転席には、もちろん有能すぎる私の使用人である矢吹が。

いきなり現れて、ちょっと怖いわ。

スパイかストーカーに間違われて逮捕されても知らないわよ。

私は守らないからね。
< 10 / 267 >

この作品をシェア

pagetop