太陽と雪
「矢吹…?」

「何か……ありましたか?
仕事中に上の空でしたので、気になったのでございます」


貴方がなんで……そんなこと知ってるのよ!

私を偵察してたとしか思えないわ。

……まあ、許してやるけど。

それだけ真面目に仕事やってるってことだからね。


………。


「……矢吹。
どこからストーカーしてたのよ!
この変態執事!」



「ストーカーなど……人聞きの悪いお言葉をご存じで。

そこだけは訂正をさせてください。

私はただ旦那さまから依頼を受けただけであります。

鑑識の仕事なら彩が心配だ。

仕事の様子をビデオカメラに収めて来い、とのご命令で……」


「……そう」


「彩お嬢様…?

先ほどから、お嬢様にしては珍しく口数が少ないですが……。

私が執事では、何かお気に召さない点がございましたか?」


……何よ。
この執事。意外に鋭いわね。


「ほんのちょっとだけ……考えていただけよ。

前の執事、藤原の事件のこと。
あの事件だったからね。

私が……鑑識の仕事に就いたきっかけ」


「そうなのでございますか」


私は、注意を払っていなかった。

この執事が、前の執事のことを口走った私を見て、どんな表情をするのか。

そんなことに注意を向ける意味がないと、この当時は思っていた。

誰だって、嫌に決まっている。

自分という存在がいるのに、前の人の方がよかったような発言をされたのだから。


私は、ただの自己中なお嬢様ぶっていたのだった。

そんなことをしていても誰も得しないことは分かっていたのに。

そうでもしながら自分を保っていないと、毎日を過ごせなかったからだ。

突然、自分を慕ってくれていた執事を目の前で失った悲しみを、今でも鮮明に思い出してしまうのだ。


「だからね。
別に……そんなことは一言も言ってないわ」


ツン、と顔を背けながら言うと、窓の景色に視線を移した。

見慣れた風景が見えてきた。

無事に帰宅した私は、たくさんの執事やメイドに出迎えられながら、自室に戻った。


「やっぱり、家が一番落ち着くわ」


そう言いながら、私は自室のベッドに身を投げた。
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