太陽と雪
翌朝、矢吹にいつもより早く起こしてもらって、朝食を食べる。

そして、今日はヘリ……ではなく、いつものリムジンで動物病院に向かった。


「行ってくるわね、矢吹」

「行ってらっしゃいませ、彩お嬢様」


病院に着く。

院長がスタッフを集め、深刻な表情をしていた。


「皆……すまない。

この病院を…閉めなければならないかもしれん」

そんなことはさせまいと、会話に割り込む。


「昨日の決算資料作成で発覚した、30万円の経営赤字でしょ?

何とかして少しでもお金を入れないと、この病院は明日にでもつぶれるわよ?」


獣医師の皆が、すごくビックリしていた。
葦田雅志の顔は、青ざめている。


「オーナー……」


「ってことで、奈留ちゃん。
出てみない?
コレ」


あの会議のときに渡された紙を、三咲 奈留に渡した。


「獣医師……コンテスト……?」

「奈留はまだ新米です!
出るならオレが!」


「このコンテスト…女性獣医師限定……よ?

まあ…貴方なら女装してもイケそうな気がしなくもないわ。

でも、体格良すぎるし背も高いから……どのみち無理ね」


片方の口角を上げて、眉間にシワを寄せて言ってみる。


「私……出ます!

その大会……出させてください!」


渋い顔をしている院長。


「院長……止めないで下さい。

優勝なんて……出来るか分からないけれど……。

これでこの病院が救えるなら……やります!」


「奈留がやるって言うならオレは応援します」


全く……とんだバカップルね。


「仕方ないわね……

でも、生半可な覚悟じゃ、準優勝すらできないわよ。

この資料……よく読んでおきなさい」

三咲 奈留に手渡したのは、私の弟の麗眞が朝の食事の席で渡してきた情報。

それを、行きのリムジンの中でまとめたもの。


麗眞ったら、パイロットの南に盗音機まで仕掛けさせたみたい。

南も職務外の依頼をよく引き受けたものね。


競技内容の概要はそれで掴んだ。

詳しい資料は後日送ってくるみたいだけど。

麗眞と相沢さんに感謝だ。


明日から……特訓開始ね。

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