太陽と雪

特訓

翌日の午後。
いつもの矢吹が運転するリムジンで、動物病院まで行った。


「奈留ちゃん。

これ、読んでおきなさい。それぞれの犬の原産地が詳しく書いてあるから」


案の定、いきなり手渡されて戸惑っている様子。


「ありがとうございます。
でもこれ、どうして」


「第2Rの留学生とのフリートークのときに便利よ?

例えば、イタリアの留学生が来たときには、イタリア原産の犬の話で話題が広がるでしょう」


「さすが……オーナーさん。
……抜け目ない……ですね」


感服されても、困るのだけれど……


「さぁ。

まずは……飼い主とのフリートークの練習ね。
私が飼い主役になってあげるから、やってみるの」

私がこう言ってもなお、
あの……などと口ごもっている三咲 奈留。


それでも、貴女は20歳過ぎた大人かしら?

その態度に、少々苛立った。

ここは、ガツンと言ってやらなければ。


「甘えるんじゃないわよ!

そうやって……人見知りだからとか。
自分が一人っ子で甘やかされてたからとか。

自分に言い訳して正当化するとか……もうやめなさい。

それは子供のすることよ。

貴女も、いい歳の女性でしょう。

約束したんでしょう?

雅志とかいう、貴女の彼氏さんと。
優勝してみせる、って。

自分が言ったことは有言実行できる獣医師になる決意を私との面接の時に言ってたじゃない?

あれは嘘だったのかしら。

今が、その時なんじゃないの?」


「すみません……オーナーさん!
私、周りに甘えてました。

やってみます!」


「ふふ。
今、いい顔してたわよ?」

それから、2時間に渡ってフリートークの練習をした。


「さすが、獣医師を志しただけあるわね。

動物に関しての知識はかなり豊富で申し分ない。

だけど、動物の話を越えた、プライベートの話になると、上手く表現が出来ないけれど、話の流れが止まるの。

動物の話のときのテンションを維持したまま喋ることが出来ていない。

そこが明日までの課題ね」


それだけを指導して、屋敷へと戻った。


「やはり、彩お嬢様は旦那さまの子供であらせられますね。

人を見る目がございます」



「そうかしら?
ありがとう」


矢吹にそう言われたことが、ほんの少しだけ、胸に響いた。
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