太陽と雪
その、翌日。


告別式と通夜が行われた。


矢吹に用意してもらった黒のサテンワンピースで相沢さんが運転する車で、会場に向かう。


人生で初めての告別式と葬儀。


何だか、いつか完全に藤原を忘れてしまう日がくるんじゃないかと思って、怖かった。


藤原への弔辞さえも、上手く言えなかった。


席に戻った後も、涙が止まらなかった。

麗眞や矢吹、相沢さんまでもが慰めてくれた。

席に戻ってからの涙は、きっと、自分に対する情けなさからくる涙だろう。



棺の中に菊の花を入れる時。


「姉さん。いつまでも泣いてるなって。

気持ちは、十分すぎるくらい分かってるからさ。

もう、最後なんだぞ?

藤原さんに会えるの。

笑顔でいてやれって。
な?」


泣きすぎて、矢吹に施してもらったメイクがぐちゃぐちゃだった。

それでも、今出来る、精一杯の笑顔を作った。



「それでいいの。

彩。

それでこそ、私の娘よ?」


「ママ……」


「メイの父親が亡くなったときなんて、泣かなかったもんな」


蓮太郎(れんたろう)
その話、今は余計よ?」


「ありがと、パパも、ママも。

いい加減、強くならなきゃね」


納骨を終えると、突然、大雨が降ってきた。


まるで私の心の内を表しているかのようだ。

お嬢様?


遠くから、矢吹の声がした。


「風邪をひきますゆえ、早くリムジンにお乗りください。

お嬢様?

彩……さ……」



矢吹が言いかけた言葉を止めた。

それもそのはず。

私が抱きついてきたからだ。


こうでもしないと、気持ちが落ち着かなかった。


「宝月 彩さま……ですね?」


私に話しかけてきたのは、お寺の人だった。


小さな石のかけらを差し出している。


「藤原 拓未さまのご遺骨を燃やした際、このかけらだけ、燃え残ったのです。

受け取ってあげてください。

きっと、これが故人からの……メッセージなのでしょう……」


「パワーストーン……ですね。

モルガナイト。

愛のエネルギーに気付く、今を生きる大切さ、恐れや悲嘆、心理的な痛みの解消、などの暗示があるとされています」

矢吹が補足する。

藤原……

奇しくも、今の私にピッタリなものを遺してくれるのね。

最期まで罪な人なんだから。

藤原のためにも、強く生きなきゃと思った。
< 158 / 267 >

この作品をシェア

pagetop