太陽と雪
「やっぱ美味いな、ここの大学の学食。
いつ食べてもやっぱ美味い!

天ぷらの具材の多さと、サクサク感。
たまんねーわ」


そこまで、卒業してもない大学の学食を絶賛するとは、どこぞの評論家かグルメライターかとツッコまれそうだ。

一気に天丼をかきこむ。


横目で椎菜を一瞥すると、まだハヤシライスに半分しか手をつけていなかった。


「どうしたの?

椎菜……。

まだ全然手、つけてないじゃん。

ちゃんと食べないから、そんな細いんだぞ。
まあ、俺は細い椎菜、嫌いじゃないけど。

獣医って体力勝負だからな、ちゃんと食えよ」


具合でも悪いのかと、椎菜の額に手を伸ばした瞬間だった。


「触らないでよ……!」

いつも穏やかな椎菜にしては強い口調で、そう言いながら俺の手を振りほどいた。


「椎菜……」

彼女はそんな行動をする女ではなかった。

少なくとも、俺が知る限りでは。

「優しすぎよ、バカ」

そう、聞こえないくらいの声で呟く。

彼女は目に涙をたくさん溜めていた。

その量が多すぎて、今にも零れ落ちそうだ。

「ちょっと冷たくあしらったと思ったら、そんなすぐに思わせ振りな台詞挟んで来ないで!

付き合ってたあの頃みたいにいきなり優しくしないでよ……!

麗眞、昔と変わってない!

ムカつくくらいよ……!

ね、麗眞……

関係、戻す気あるの?

ないの?
どっちよ……

いい加減ハッキリして!

あのとき、私が勇気を出してカナダに行ったときのこと、覚えてる?

勉強やら実習やら試験で忙しくて電話の時間も取れなくなって、寂しくて……

本当にこのまま遠距離恋愛で、今まで通り仲良くやっていけるのか不安になった……

こんなくだらない理由だけで距離を置きたいって言った私の立場はどうなるの?」

必死に鼻をすすり、鼻水をこぼすまいとしていた椎菜。

そこで、彼女の言葉は途切れた。

流れた涙が邪魔をしたのだ。

しっかりと念入りに施したであろうメイクも涙で流れて既に落ちている。


やっぱり。

俺が煮え切らない態度をとったから、不安にさせたのだ。

昔も、こんなことがあった。

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