太陽と雪
しばらくして、目を開けると同時に、ダンボール箱を抱えた矢吹が入ってくるのが見えた。


「彩お嬢様。

奥様が受け取って下さったようですよ。
こちらの品を」


「あの……矢吹?
ママ……何か言ってた?」


「いいえ。

呆れたように笑っておりましたよ。

彩は熱が出ていても通販の服は気にかけるんだから。

というような感じでございました」


ママ、怒ってないかな……
直接、顔みたいな……


と、そんなとき。


ノックとノックの間にちょっと間の開いた、控えめな音。

このノックの仕方は……ママだ。


「あら、まだ開けてなかったの?

早く開ければいいのに」

笑顔でそう言いながら入ってきたママ。

怒ってないの……?

私、あんな勝手なことしたんだよ?


「あの……ママ……!

ごめんなさい!!

勝手に出ていったりして……」


ママは……あっけにとられていた。


だって……私……生まれてこのかたママに謝ったことなんてないもの。


自分が本当に悪いと思ったときにしか、謝らないから。


「いいのよ。

私こそ……ごめんなさいね。

キツく言いすぎたわ。
彩にとっては……大事な人だものね。

小さい頃から彩に仕えてきたし」


「うん……」


「努力はしてみる」


そう言うと、ママは私に耳打ちしてきた。


「矢吹さんのことよ。

異性として気になってたり……しないわよね?

まあ……それはそれで微笑ましいけど。

私は応援するわよ。

私も蓮太郎と同じ考えよ。

主従関係があろうがなかろうが、好きな人なんだもの。

彩が本当に好きな人と結ばれるべきよ」


私の顔が一瞬で赤くなった。

また熱が上がったのかと勘違いするほどだ。

私の顔を見たママはニヤニヤした表情を浮かべて、スキップでもする勢いで部屋を出ていった。

矢吹のことは……

異性として気になってはいるけど……


好きとかじゃない。

そもそも、恋愛感情自体、どんなものかよく知らない。

好き、って何?
< 17 / 267 >

この作品をシェア

pagetop