太陽と雪
「んんっ……」

既に、理性では衝動が抑えられないくらいまで来ていた。

そのスイッチを入れたのは、紛れもなく自分自身だ。

離れていた間の時間を埋めるには、1回限りのキスでは、とても足りるはずがなかった。

2回、3回とキスを繰り返す。

そのうちに、椎菜の方から身体を密着させてくるようになった。

薄いレースの服越しに、豊かな胸の膨らみを感じた。

その膨らみの感触に、俺のズボンの中央にある雄も反応していた。

金持ちの家のお坊ちゃまである前に、健全な1人の男だ。

椎菜が今着ている、白いブラウス。

俺の腰の辺りに白いブラウスのフリルの感触があるそれ。

薄手の素材だからか華奢な椎菜の身体のラインをしっかり拾っている。

「あのさ……椎菜。

頼むから、身体のラインを拾う服、俺が傍にいるとき以外は、あまり着ないでくれると嬉しいな。

俺がヤバい。

……理性がどうにかなりそう」

「どうにかなりそうって?

……何が?
どんなふうに?」

それ、この場で言わせるか?
普通……

「いいから。

お願いだから、上に何か羽織ってくれる?」

「分かった……
何か着るよ」


そう口では言う。

けれど、何かが不満なのか、口を向日葵の種を詰め込んだハムスターみたいに、頬に空気を入れて膨らませる椎菜。

「こういう、いい子ちゃんぶった、デキるOLみたいな格好、麗眞は嫌いなんだ?」

俺を見つめる目に涙をたくさん溜めて、今にも泣きそうな椎菜。

その潤んだ目。

やめてくれ。

ガチで理性飛びそう。


「好きだよ?
そういうの。
大好物だよ。

今着てるみたいな身体のラインを拾うだけじゃなくて肌が透ける薄い素材の服も。


いいから、椎菜は早く自分の身体を治せ。
な?

そうすれば、何でこういうこと言うのかも、全部イチから身体で教えてやるよ」

耳元でそう言ってやる。

診察のときに邪魔だと高沢が脱がせたであろう白いニットカーディガンを着せてやる。

「着とけ。

風邪ひく。

椎菜は昔から気管支丈夫じゃないんだから。

わかってるよね?

風邪ひいたら、せっかく俺と、もう一度恋人になれたのに、イロイロ楽しいことできないよ?

じゃあ、俺はそろそろ戻るわ」


「ね……麗眞。
もう……帰っちゃうの?」


俺を見上げる上目遣いの目。

まだいてほしい、と言わんばかりに、その目はまだ潤んでいた。


「大丈夫。

警視庁のほうに業務報告と、タイムカード押しに行くだけだよ」

「可愛くて素直な椎菜のためなら、そのあとでまたここに戻ってきてもいいんだけど。

椎菜はどうしてほしい?

大事なのはそこだと思うんだよね」

「じゃあ、戻ってきて?
麗眞の顔、ずっと見ていたい」

「分かったよ。

すぐ戻る。

待っててな、椎菜」

外に出ると、相沢のリムジンが。


「まさか、ずっと待ってたの?」

「当然でございますよ、麗眞坊ちゃまの執事ですから」


「ありがと」

「どうやら、いろいろ御苦労されているご様子をお見受けしましたが。

今回も、抑えるのに必死だったようでございますね」

「そうなの。

大変だったよ。

色気ありすぎて、可愛すぎて。
困る。

我慢のしすぎでどうにかなりそう。

それだけじゃなくて、椎菜、姉さんの上をいく純粋さだった。

高校時代にイロイロ教え込んだんだけどな。
俺、どこまでもつかな……」

「ふふ。

麗眞坊ちゃまは、本当によく耐えていらっしゃいます。
立派ですね。

椎菜さまが、退院なさるまでの辛抱では?

高沢が、1週間で退院できると言っておられました」

「そうなの?」


だけど、その1週間の間に、必ずお手洗いに寄ってから椎菜の病室に行き、帰る前もお手洗いに寄らなくてはならない。

最悪、帰りはいいんだけど。

宝月の屋敷に帰ってから、お手洗いの個室かシャワールームで、欲の処理をすればいい。
虚しいけど。

何だか先が思いやられる。

「麗眞坊ちゃま、警視庁に到着いたしました。麗眞坊ちゃま?」


「ああ、悪い。
ありがと、相沢」


相沢に呼ばれるまで、俺の脳内でどんな良からぬ妄想が繰り広げられてたかなんて、誰にも言えるわけがなかった。


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