太陽と雪
遠慮がちに、高沢の部屋のドアを2回、ノックする。


「麗眞さまですね?」


美崎さんからオレが行くことを聞いていたのだろう、高沢の声がした。


「そうだ」


「どうぞ、お入りくださいませ」

部屋に入ると、美崎さんもいた。

「一応、クスリは切れたけど精神的にもショックが大きいみたいなの。

くれぐれも変なことはしないようにね?」

「本当よ。
私のデキる弟なら、いくら性欲オバケでも、弱っている婚約者に手なんて出さないわよね」

釘をさした美崎さんは、俺と入れ替わるようにして部屋を出て行った。

姉さんは一言余計だが。

「椎菜……?

平気?」

なるべくゆっくり、少しの足音も立てないように気を付けて、彼女の眠るベッドへと近づく。


「麗眞……!」


顔の半分を布団で隠した椎菜が、ゆっくりと俺のほうに目線を向ける。

その瞳は、真っ赤に充血していて、頬にはまだ乾いていない涙の痕があった。


なるべく欲情を顔に出さないよう、細心の注意を払いながら、椎菜に声を掛ける。


「椎菜……
どうした?」


布団ごと俺の胸元に飛び込んできた彼女。

いとも簡単に、俺が必死に抑え込んでいる理性を崩しにかかる。

その潤んだ瞳を見ていると、今すぐにでも押し倒したくなる。

椎菜がこんな状況じゃなければ、きっとそうしていただろう。


「ね……麗眞……嘘だよね?

麗眞の元カノが妊娠したなんて……

お願い、嘘って言ってよ……!

妊娠するなら、ちゃんと私と麗眞の遺伝子受け継いだ子がいいの……!

今度は、流産とかじゃなくて、ちゃんと産んであげたい!

名前まで考えてあるんだから!」


泣いてたからかもだけど、その掠れた声も、ヤバイんだよね……

理性飛びそう。

この言葉は必死に胸の奥にしまい込んだ。

胸に引っかかる流産という単語。

思い当たる節はあるが、今、それを彼女に尋ねることは避けた。

……今は聞くべきではない。

もう少し、彼女自身が落ち着いてからがいいだろう。

何なら、村西さんと遠藤さんのあのカクテルの力を借りてもいい。

布団ごと彼女を強く抱きしめてやると、耳元に顔を寄せた。


「椎菜さ、いつ俺がお前に元カノいるって言ったワケ?

そんなこと、今も昔も言った覚えないけど。

それに、俺が世界一……いや、宇宙一好きなのは椎菜だけなの。

分かった?

椎菜にしかこうならないし」

椎菜の手を、俺のズボン越しに、大事な部分に触れさせる。

「うん……」

ようやく俺が聞き取れるくらいの蚊の鳴くような声でそう言った彼女。

顔だけでなく耳まで真っ赤にしていた。


「これくらいでこんな顔赤くしちゃって……ホントに可愛い。

俺の裸なら何度も見たでしょ?」


懲りずに耳元でそう言ってやると、プイと顔を背けてしまった椎菜。

あらら。

さすがにやりすぎたか。


「ごーめーん。

ちょっとからかいすぎた。

機嫌なおして?」


椎菜が可愛すぎるから、という言葉は、心の中で言っておいた。


「高沢さんはいたけど、一人で寂しかったんだからね?

……キス……してくれたら……許してあげてもいいよ?」


この純情すぎる俺だけの天使は先程から理性を壊すことばかり要求してくる。

俺、ずっとここにいるの?

理性もつかな……


あくまで理性が飛ばない程度の、軽いキスを落としてやる。


「ありがと、麗眞……」


「ね、なんか食べた?
夕飯」


「私は食べたよ?

でも……麗眞が何も食べてないでしょ……?」


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