太陽と雪
「麗眞坊ちゃま、ご心配なく。
旦那さまのお知り合いのようで」


え?
親父の知り合い?


髪のてっぺんが禿げかかっている、でもスーツ姿には貫録のある、ガタイのいい男性が1人、失礼しますと言いながら入ってきた。


「誰……ですか?」



「お、麗眞くんか。

まだ君が小さかった頃に一度アメリカで会っているんだが、まあ、覚えていないのも無理はない。

遠藤によると、その時の君は生後3か月ほど。

そのときには、音声を伴って接近する顔らしきものに対して無差別に微笑みかける時期。

よって、どの人間がどんな顔の形をしているのかまったくもって判別できない時期らしいからな」



「改めまして。

君のお父さんがアメリカに留学していたときからの知り合い、村西 翔平(むらにし しょうへい)です。

よろしく」


「村西さん……
よろしくお願いします」

そう答えながら、俺は素早く記憶の糸を辿っていった。

確か、俺がカナダへ留学する前の年の秋のこと。

親父にアメリカでの留学生活はどんな感じだったのか尋ねたことがある。

その時に、昔は外交官をしていて、まだアメリカに土地勘のない時期に通訳もしてくれていた人がいると、聞いた。

それが、今俺の目の前にいる人か!


「昔は外交官をなさっていたんですか?」


「ああ、そうだよ。

なんだ、蓮太郎のやつ、俺のことをちゃんと話してくれていたか。

財閥の仕事は他に任せっぱなしでアイドル業だけちゃんとやってるんじゃないかって心配だったんだよな」


そう言って、腰に手を当てながら豪快にガハハハと笑う村西さん。

なんか、親父がこの人のこと信頼してたの、分かる気がするなあ。

「ん?

なあに?

麗眞のお父さんのお友達さん?」


スリッパのかかとをひっかけたまま、部屋から出て来る椎菜。


「おお、君が噂の麗眞くんにとっての子猫ちゃんか」


子猫ちゃん、なんて初めて言われたのか、耳まで真っ赤にする彼女。


「ふふ、村西さん、人の婚約者口説いてもダメですよ?

椎菜は俺のですから」


そう言って椎菜の肩を強く抱いて自分のほうに寄せる。


その瞬間、村西さんが吹き出した。


「何かおかしいですか?」

「いや、ホントに、さすがだな。

あまりにその口調と行動が蓮太郎にそっくりなもんで、つい……」


またか。


いや、もう言われ慣れてるけど。
そんなに似てるの?

まぁ、親父と一番親交があった人がそう言ってるんだ、そうなのだろう。

「麗眞くん、この家の地下にあるんだっけ?
バーが」

はい、と返事をして、先導するように村西さんの前を俺が歩く。

その前に相沢。


「あの、私、お酒強いほうではないのですが……大丈夫でしょうか」

椎菜本人が言っているが、椎菜は酒に弱い。

カクテルグラス1杯で顔を真っ赤にするほどだ。

「オレも副業バーテンダーだもん、それくらいは頭にある」

おずおずとか細い声で言う椎菜に、安心しろと言う村西さん。

バーテンダーなの?

親父から本業はFBIの捜査官って聞いていたのにな……

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