太陽と雪
お色直しの際は、深月ちゃんが俺たちのエスコートをしてくれた。

彼女の顔色が心なしか良くない。

そのことに、俺も椎菜も気付いていた。

だが、敢えて何も言わなかった。

その場の雰囲気を壊したくなかったからだ。

椎菜はお色直しの前に、奈留ちゃんに引っ張られていった。

その時、さっきピアノを演奏した和之さんの妻、悠月さん。

その隣には、深月ちゃんがしんどそうに廊下を歩いているのが見えた。

女性同士、何か気にかかることでもあったのだろうか。

それとも、道に迷ったか。

後で聞いてみよう。

俺も椎菜も、衣装を変えた。

お色直しのドレスの色は、当日まで秘密だったから、コーラルピンクのドレスにしばし見惚れていた。

「あのね、麗眞。

言わなきゃいけないことがあるんだ」

椎菜はそう言って、俺に耳打ちをしてきた。

「椎菜……。

本当、なの?」

「もう!

この期に及んで嘘なんか言わないよ!

何なら、病院付き添う?」

椎菜を後ろから抱きしめる。

「あ、いや……。

信じてないとかそんなんじゃないよ。

まだ、ちょっと混乱してるだけ。

俺は多分、心配そうに見守るしか出来ないけど、ちゃんと10か月と10日、支えるから。

今度は、ちゃんと産もうな。
俺と椎菜の子」

椎菜が妊娠した。

あれは、まだ残暑厳しい季節のことだ。

柏木グループからの結婚祝として、国内旅行をプレゼントしてもらった。

京都は高校の時に2人で行っている。

俺がカナダに経つ1週間前に。

浴衣が似合う街の城崎か、伊香保のどちらかに行きたいと椎菜からのリクエストがあった。

紅葉の季節だったので、伊香保に行ったのだ。

その時は、まだ学生だった頃の俺たちよろしく、浴衣を着て石段街を観光した以外は、ひたすら椎菜を抱いていた。

「あの伊香保旅行の時の麗眞、浴衣姿が色っぽくて。

『旅行の間、本気で孕ませるつもりで抱くけど、いい?』

そんな台詞まで言われちゃ、身体が疼いて仕方なくて。

私も早く麗眞との子供欲しかったから。

実感はまだないけど、嬉しい……」

「椎菜が足繁く病院通って、学生の頃から飲んでた薬を止めるタイミングについて相談してたのも、日記読んで知ってたからさ。

奥さんの気持ちに、応えない旦那なんていないでしょ。

俺もさ、あの時の椎菜が色っぽくて。

理性保たなかった。

きっと、あの時の成果だよね」

もう椎菜に流産なんて辛い思いはさせたくなくて、無事に産ませてあげられるかが気にかかった。

朱音さんに頭を下げて検査までしてもらった。

運動能力と量、どちらも全く問題ないとお墨付きを貰って、いくつか妊活のアドバイスを貰った。

その2週間後が伊香保旅行の日だったのだ。


「お二人さん?

時間よ!

ほら、いつまでもイチャイチャしてないの」

式を一緒に作り上げてくれたプランナーの華恋ちゃんに軽く怒られ、再び入場する。

お色直し後に、まだ写真を撮っておらず、所在なさげにしている、華恵さんの娘さん2人。

姉妹2人を椎菜が呼び止めた。

「賢人くん、写真お願いしていい?」

「了解!

可愛く撮るからね、2人共」

優美ちゃんと優華ちゃんの頭に軽く手を添えた賢人は、何枚か写真を撮ってくれた。

「ありがとうございました!

一生の思い出にします!」

優美ちゃんは、そう言って頭を下げた。

しばらく、椎菜は御劔姉妹と、しばしの間話し込んでいた。

椎菜が両親に、花束とDVDディスクを渡した。

これは、娘から両親へのビデオレターなのだ。

俺も、ちゃっかりメッセージを寄せたが。

「たまには顔見せろよー!
椎菜ぁ~!」

椎菜の父親は号泣していた。

大事に育ててきた娘だもんな。

「お義父さん。

落ち着いたら、そちらに伺わせていただきますね。

お伝えしたいこともありますし」

「そうか……
うん、いつでもおいで。

待っているよ」

「これにて、結婚式及び披露宴はお開きとなります!

皆様、長い間お疲れ様でございました!

ゲストの皆様は、一度ご退場下さい!」

『業務連絡ー!

プランSの関係者はロビーにお集まり下さいー!』

華恋の声で、サプライズ開始が告げられた。
プランS。

サプライズ挙式、の頭文字を取ってそう呼んだ。

華恵さんの代も、同じようにサプライズをしたそうなので、協力を仰いである。

さぁ、主役はもう俺たちではない。

これからの主役は、深月ちゃんと道明だ。
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