太陽と雪
「眠っ…」

どうやら睡眠不足らしい。

「眠いのでしたら、眠気など一瞬で吹っ飛ぶ、垂直落下がウリのアトラクションがあるそうでございます。

それに一番最初に乗りますか?
お嬢様」


矢吹!?

垂直とか……

嫌よ!

絶対に嫌!


「冗談……ですよ。
彩お嬢様。

怖がらせてしまったのなら……申し訳ございません」

「べっ……別に大丈夫よ。
怖がってなんかないから」

矢吹には……絶対バレてる。

「彩お嬢様。
声が震えていらっしゃいます。
大丈夫でございますか?」

そう……耳元で言ってくる。

耳に付いている白いシェル素材とアクリルのピアスを通して身体全体に熱が伝わってくるのが分かった。


「大丈夫よ。

大丈夫だから……いちいち耳元で言わないでくれるかしら?

くすぐったくてかなわないわ」


「大変失礼致しました。
平にお許しを」


律儀に頭を下げる矢吹を見てるだけだ。
いつもの光景。

それなのに、まだ身体が熱を持っている。

何でだろう……

夏の暑さのせいよね。

うん、きっとそうよ!


「あ~、暑い暑い。

いろんな意味で。

相沢と2人で来てる、オレの身にもなれって。

ま、いつかは椎菜と2人で来たいんだけど。
しかもこんな感じで貸切で」


「何よ!

麗眞、冷やかさないでほしいわ!
しかも、"いろんな意味"って何なのよ!

意味不明なこと言わないで!

貸切にするのは椎菜ちゃんとウザいくらいイチャイチャしたいからでしょうけど」


「お嬢様。
とにかく……アトラクションに乗りましょう。
時間がないですよ?」


まずは、蒸気船に乗って、エントランスから一番遠いエリアに向かう。


私……寝そうだわ……


「お嬢様?
よく……睡魔に耐えられましたね?」


当たり前よ。

10分も乗ってなかったじゃない!

5分で寝られるほど眠くないわよ……


あの……まさか……あれ?

嫌でも目につく、高くそびえ立つエジプトにでもありそうな神殿。


「い……行きましょ……矢吹」

序の口よ、こんなの!

もう30のいい大人が、怖いなんて言っていられないわ。
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