太陽と雪
夕食を終えた私たちは、自室に戻った。


「彩お嬢様、お召し替えは致しますか?」


「そうね、せっかくホテルに戻って来たんだし着替えることにするわ。

覗かないでよ?」


「お嬢様……
いくら私でも、そのようなことは致しません」


「知ってる。

冗談で言っただけじゃない。

いつも私が着替えてるときは後ろ向いてくれてるしね?

さ、早くそうしてちょうだい」


「かしこまりました、彩お嬢様」


Vネックで、上がレース、下がツイードスカートというように異素材になっているワンピースに着替える。

これ、背中にファスナーあったのね…

知らずに選んできちゃったわ。


よし、さりげなく……矢吹に言ってみるか。


「矢吹?

仮定の話だけど。

もし、今私が背中にファスナーがある服着てたらどう思う?」


「ふふ。
今、お召しになっていらっしゃるのでございますね?

お嬢様は嘘を見抜くのはお得意ですが、嘘をつくのは苦手でいらっしゃいますから」


バレてるし……
何で?

この男には通用しないみたいね……
さりげなく言うのは。


「閉めて差し上げますので、少々お待ちいただけますか?

彩お嬢様」


「……別に。
大丈夫よ」

わざわざ閉めてもらわなくても、何とかしてみせる。

「いけません、お嬢様。

そのまま外に出ては、ヒドイ目に遭うこともあるのでございますよ!?」


「分かったわよ……!
早くしなさいな」


「痛っ……
バカ!

ファスナー、勢いよく上げすぎよ!」


「申し訳ございません……

しかし、私個人の意見としましては、お嬢様がこのような服を2日連続でお召しになるのはいかがなものかと……」


「何よ、私に背中にファスナーがある服を着るなと言いたいわけ?」


「お嬢様。

お屋敷では大いに結構ですが。

このような場所ではお避け下さいませ。

彩お嬢様は純粋すぎる方ですのでご存知ないかもしれません。

しかし、世の中には邪な感情を抱く男が大勢いるのでございますよ!?」


「バカね。
そんなことあるわけないじゃない」

軽く聞き流す。
本当に大変なことになるなんて、知らずに。

そういえば、私、さっき受付の人から身分の高い人限定で参加できるカクテルパーティーに誘われてたんだわ。

「じゃあ、矢吹。

私は、カクテルパーティーに誘われているから、ロビーラウンジにいるわ。

暇なら来るといいんじゃないかしら」

私はそれだけ告げて、足早に会場へ向かった。
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