十三日間
「い、いやだああ! いやだああっっ!」
俺の甘い時間は、隣のおっさんの悲鳴に近い声で終わりを告げた。
「…何事だ?」
俺は、独り言を呟くと、ようやく身を起こす。
もう少し、余韻を楽しんでいたかったのに、声が聞こえたと同時に、あの甘い香りも消えてしまった。
「いやだあっっっっっ」
おっさんはまだわめき続けている。
「…彼は、今日階段を登るからな…」
逆隣から聞こえてきた、じぃさんの言葉に、俺は納得した。

…そうか、今日、か……

案外早かったおっさんの最期だったが、俺にはあまり関係はなかった。

ただ、何日か隣の部屋にいただけ。
幾度か声を聞いた程度。

同じ境遇にあるとはいえ、俺とおっさんをつなぐ物は、この監獄の部屋と、いずれ俺も登る階段だけだ。

俺は、最期の日でも、あんなに取り乱したりはしない。
毅然とした態度で、階段を踏みしめて登ろう。

俺は、ここに入った時からそう思っていた。

罪を甘んじて受け入れること。

それが、償いになるかは判らないが。
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