十三日間
「うるせぇぞっ!」
「あんちゃん、大丈夫かい?」

両隣から、同時に声がかかった。
ずっと静かに思考に耽っている俺が、突然壁を叩いたからだろう。

隣のおっさんには、残された日があと2~3日だった筈だ。
だから余計に、神経質になっているのだろう。
おっさんは無視する事にした。

「大丈夫だ、気にしないでくれ」
じぃさんに返事をして、座り直した。
「いや、だがね…変な事は考えちゃいかんよ」
じぃさんの声は心配そうだ。

変な事、か。

思わず笑いそうになる。
じぃさんは、俺が自殺でも試みてるとでも思ったんだろうか。
どうせ、あと八日しかないんだ。わざわざ苦労して命を縮めることもあるまいに。

だがじぃさんの口調から、過去にそういう例があったのであろうことは想像できた。
物好きもいたものだ。

「そういう事じゃない。関係ないだろう、ほっといてくれ」
俺はそう言い放つと、座り直した。

「だがな…話でもすれば少しは楽にはならんかい?」
じぃさんは、自分が話し相手が欲しいのだろう。

だが、俺は人の話に付き合う気はさらさらなかった。
じぃさんの事も無視することにする。

……人を信じれば、裏切られる。

そんな経験は、一度あればたくさんだ。

< 62 / 267 >

この作品をシェア

pagetop