。*雨色恋愛【短編集】*。(完)
ふたつめの舞台挨拶も終わってしまった。

…奈央の、自然な作り笑いが、すごく心に痛

いんだ。

…俺、あいつが好きだから。

すぐにわかるよ。

悪いのは、自分だってわかってるけど。

ふたつめの舞台挨拶も、1回目とほとんど質

問は同じで退屈だった。

…俺も作り笑いで対応中。

次の舞台へ向かう。

あとひとつで、最後だ。






『好きな映画のセリフを言ってください』

「…剣人、好き」

奈央が言った言葉。

…そんな言葉、選ぶなよ。

なんか、剣人に奈央をとられた気がする。

…すっげぇ嫌。

自分から、付き合うことを拒んだくせに、な

に言ってんだよ、俺。

「…俺は、梨華が剣人を応援するセリフが好

きです」

『では、夕暮さん、そのセリフも』

「剣人、がんばって!!」

…その言葉、そのまま返すよ。

奈央、がんばれ。

俺も…がんばるから。

『今、好きなセリフを考えてください』

「……愛してる。そんな言葉では表せないほ

ど、あなたが好きです」

…そんなこと、お前が言ったら、何人の男が

本気にすると思ってんだよ。

…その言葉を、どんな気持ちで言った?

『青葉さんもお願いします』

なんて言おう。

「…お前は、俺のことを一生好きでいろ」

…俺は、お前にそんなこと言えないから。

だから、ここで…

奈央、好きだ。

できれば、ずっと俺のことを好きでいてほし

い。

『青葉さんは、俺様ですね~。恋とかしてる

んですかぁ?』

びくっと、奈央が肩を揺らした。

…んな動揺すんなって。

「…好きな人はいますよ」

『そうなんですね~!!では……』

話は長々しく続いていた。

なぜかありがたい気がした。

…だが、それにも限界が来て。

舞台挨拶終了となる。

さっきと同じ席に、また座った。

本当は、もうひと席だけだけ、両側が空いた

席があるけど、座らない。

なるべく、奈央の近くにいたいから。

舞台の最後の場所から、戻るまでにすごく時

間がかかる。

なるべく、奈央を見ていたいから。

きっと、帰りも女子ふたりが話すと思うし、

そうすれば、俺も奈央を見てられる。




< 127 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop