。*雨色恋愛【短編集】*。(完)

神に願いを

「…すいません」

声をかける。

苛立ちを、露にしないように。

振り向くホームレスに、何も言わず…


胸を一突きした。


ナイフで…




「あぁっ…」

痛みに声をあげる、ホームレス。

こいつの声を聞くと、憎しみが増してくる。

…結愛が、どんなに苦しんだのか、わかって

んのか!?

お前の変な好意で、結愛を殺してしまったん

だ。

真っ昼間なのに、誰も来ない。

俺の服は真っ白だから、返り血がよく目立っ

ている。

持ってきた上着を来て、買った制服と、自分

の制服、ナイフを持って、違う場所へ。

ナイフと女の子用の制服は、岡本から巻き上

げた20万円で買った。

姉貴に、迷惑かけちゃうかな。

弟が、殺人犯だなんて。

…ごめんな、姉貴。

俺、こんな奴で。




俺が来た場所は、小さなチャペル。

前この場所を見つけた時に、また来たいと思

った、このチャペル。

ゆっくりとチャペルの扉を開けて、中に入っ

た。

十字架の前に、片膝をつく。

荷物をおいて、手を組む。

「…神様」

神様…

どうか、俺を許さないでください。

俺は、多くの人を傷つけ、殺してしまいまし

た。

俺は、許されてはいけない人なのです。

けど…

これだけは、認めてください。

俺は、本当に結愛を愛していました。

今もこれからも、結愛を愛すること。

それだけは、認めてください。

ただずっと…

結愛のそばにいたいと思うことを許してくだ

さい。

それと、これは俺自身の考えです。

結愛は全く悪くない…

神様…

あなたが本当にいるなら、結愛を幸せにして

あげてください。




教会を出た俺は、ナイフを取り出した。

そして、自分の左胸を、ありったけの力で刺

した。

「うぅ…あぁっ…」

痛い。

すごく痛い。

とにかく、制服をっ…


制服を抱き締めて、俺はその場に倒れた。

その時には、雨が降っていた。

そして…


「松崎儚、15歳。死亡が確認されました。所

持していたのは、ホームレスを殺害したナイ

フと、家族宛ての手紙のみです」


俺が抱き締めていた制服は―…

消えていた。
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