。*雨色恋愛【短編集】*。(完)
「……お前、手抜いただろ」

「俊兄?」

今の声、そうだよね?

「…今、お前本気で殺ってないだろ。銀が…

銀にそっくりだ」

「なんで?俺、親父の喧嘩はよく見てきたけ

ど、スタイルは真似してねぇし」

「…銀が、俺に一度負けてくれた時と同じだ

った。殴る時、一瞬だけ力を抜いて、寂しげ

に笑う。…そっくりだった」

「…親父のことなんか、知らねぇよ」

「……桜吹雪碧」

今度は、楢崎龍の声だ。

やっぱり、冷たい声。

「………龍月に入れ」

「龍月?」

なんだよ、それ。

「……俺らのチームだ。この学校のトップ。

そして、ここらの学校のトップで、その代表

チームだ」

「へぇ。で、なんで俺が、お前らなんかのチ

ームに入らなきゃなんねぇんだよ」

「碧、楢崎は悪い奴じゃない。ここらの地域

を守ってんだ。そう…桜吹雪組と、同じ役割

なんだ」

「桜吹雪組と?」

「……俺ら、龍月とは逆に、ここらへんを自

分たちの場所にしたい奴ら、うちの学校や、

他校を狙って、金を盗む奴ら。そんな奴らか

ら、生徒を守る。それが、俺らの役目だ」

…桜吹雪組と、同じだな。

親父と…同じか。

「……お前の強さは、いろんな奴らが欲しが

るし、お前みたいな奴が、龍月に入れば、ま

た他の奴らが安心できる。だから…」

「俺の強さを、認めるってことだな?」

「は…?」

「俺の強さを認めるなら、入ってやってもい

いよ?」

イコール、龍月に入れば、また喧嘩できるチ

ャンスが増えるってことでしょ?

あたしは、強くなりたいんだ。

「……碧、お前は強い」

「よし。龍月…入ってやるよ」

「……碧、お前を幹部に任命し、幹部長とす

る」

「幹部長?なんだよ、それ。てか、幹部長と

総長ってなにが違うんだよ」

「……まぁ、違いはねぇな。ふたりの総長だ

な。副総長は、優だから。情報は、怜。あと

幹部は、海と空。基本、2年と3年は、龍月

の傘下だ」

「ふ~ん。じゃあ、よろしくな。龍総長」

「……よろしく、碧」




…碧ってさ。

あたし、男に普通に名前で呼ばれたの、初め

てだ。
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