あやとり


よほど、腹が立てていたらしく、父は夕食後、ウィスキーを二杯飲んで、早々に寝室に行ってしまった。

私は、ソファーでため息ばかり吐いている母の隣に座った。

「お父さん、機嫌悪いね。優ちゃん、何か言ったの?」

母は私の顔を見て、もう一度ため息を吐き、両手で自分の顔を覆いながら何度も上下させている。

「……婚約破棄のこと、あれね、原因の半分は自分にあるからって、お見合いする気はないって」

「原因の半分?」

母は手を止め、私の顔を覗き込んだ。

「みぃちゃん、誰か聞いてない?優ちゃんのお付き合いしている人って誰なのかしら?」

「付き合っている人がいるって、優ちゃんが言ったの?」

「お付き合いしているけれど、結婚できない人だからって言うのよ。それって、奥さんのいる人ってことになるじゃない?」

「え、そんなこと言ったの?優ちゃんが?」

「そうなのよ。だからお父さんが怒り出しちゃって。大変だったんだから」

「そ、そりゃあ、怒るよね」

うちの父だけに限らず、どこの親だって冷静じゃいられないだろうと思うような爆弾発言だ。

あの優等生で親の自慢だった優ちゃんから言われたのだから、父のショックは量り知れない。

「ショックだったわ。母さんも」

「……そうだよね」

「どんな人なのか、聞いてもね、ガンとして言わないのよ。これから、どうする気なんだか……」

「うん」

相手の人は、会社関係の既婚者ってとこなのだろうか……。

結婚出来ない人って言ったら、既婚者ってことだよね、やっぱり。

その時、甲斐君と優ちゃんのあのシーンが蘇ってきた。

結婚出来ない理由ってことは……まさか、甲斐君?
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