あやとり
「……東野にさ、マンションあるだろ?」
優ちゃんが田村さんと新婚生活を送るはずだったマンションだ。
「うん。あるね」
「あれ、うちの親父が設計したところでさ、デザインが好きなんだよな。で、よく眺めに行くんだ。勉強の意味も込めてね。そこの前で」
思い出したように甲斐君が笑い出す。
「なに?」
「いや、あの綺麗な顔からさ、あんな言葉が出てくるとは意外だったなぁって。だってさ、〈馬鹿にすんなよ、もう。こんちきしょう!〉だよ?そう叫んだかと思ったら半べぞをかいたような顔になってさ、おれと目が合った瞬間、ゆでだこみたいに赤くなっちゃって。そしたら急に偉そうに腕組んじゃってさ、〈見たな、少年〉って。マジ、ウケた」
自分の口が締まりなく開いているのに気付かないほど、私は間抜けな顔をしていたに違いない。
彼の視線がこっちに向いてニヤッとした瞬間、はっと口に手を当て赤面してしまった。
「ああ、そんな顔。さすが妹だけあるな。変なトコが似てる」
彼は妙に納得して笑う。