今宵は天使と輪舞曲を。
Act Ⅱ・ブラフマン家からの招待状。

§ 01***キャロラインのしたたかな企み。




「お父様、相談したいことがあるの」

 濃い木目調のドアの前に立つと、キャロラインは姿勢を正し、静かにノックした。

 翌日、朝食を終えた後、キャロラインは父、モーリスのいる書斎に足を運んだ。書斎で仕事をこなすモーリスの手を止めてまでやって来た彼女の理由はただひとつ。兄ラファエルとメレディスの仲を取り持つためだ。

 二人が一緒にいるのを見たのは二度だけだが、傍から見てもふたりはとてもしっくりくる。

 ブラフマン家の次男として育った兄ラファエルは常に兄グランの立ち振る舞いと、末っ子であるキャロラインの面倒を見なくてはならない。それ故に、彼は周囲を気遣う。目上の兄には勝てないと知っているからこそ、ラファエルの性格は我慢強く、争い事を嫌う。とはいえ、彼はグランやモーリスとは違う新たな事業を考えているほど冒険心が旺盛だから、彼の妻にはしっかり者で、それでいてユーモア溢れる女性がいいだろう。

 一方のメレディスは一見すると控え目に見えるが、キャロラインの冗談を笑えるユーモア性だってある。そればかりか、実は負けん気の強い女性だったことが判明した。それは昨夜、彼女がラファエルに対して毅然とした態度で接したのが何よりの証拠だ。

 けれど――。
 本当にこのままふたりの関係が終わってしまってもいいのだろうか。

 社交界の帰り道、昨夜のラファエルの様子はどこかいつもと違っていたし、メレディスだって目に涙を浮かべていた。


< 119 / 326 >

この作品をシェア

pagetop