今宵は天使と輪舞曲を。

 けれども彼らはメレディスにとって縁もゆかりもないまったくの他人。血縁関係にある叔母でさえも自分を利用しているのだから無理のないことかもしれない。

 一度自分の人生を受け入れてしまえば楽ものだ。すべてを諦め、何の感情も抱かず、ただ機械的にこなせば良いだけのことだから。

 そういうこともあって、メレディスに与えられた今朝の家事はことごとくスムーズにこなせていた。

「お母さま! 見て!!」

 朝一番に声を上げたのは長女のジョーン・デボネだ。

 彼女はこうして使用人の如く台所に立ってあくせく働くメレディスに見せつけるかのように、手紙を持ち出しては自分がいかに幸福であるかを披露する。透けるような白い柔肌に細くてしなやかな体を絹でできた純白のドレスが包み込む。彼女が身に着けている衣服のほとんどがトスカ家の財産だった金品で成り立っている。

 メレディスは夢みていた。自分もいずれはジョーンと同じように年頃の女性として着飾り、自分を愛してくれるひとりの男性と楽しい日々を過ごせることを――。けれどもそれはただの夢。今、自分が手にしているのは男性からの求愛の手紙などではなく、汚れたぼろ雑巾だ。

 メレディスは床に這い蹲って朱色に染まっていく手を休めることなく動かし続ける。
 割れた皮膚の隙間から赤い血が次から次へと流れ出るが、水の冷たさもあってか不思議と痛みを感じないのはいいことだ。メレディスは、鮮血が雑巾の染みになっていくのをただただ見つめる。


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