今宵は天使と輪舞曲を。
とても優しい仔。
クイーンだけじゃない。キャロラインやグラン。そして何より、クイーンさえも見つけ出してくれたラファエルの寛大な心は今まで出会った誰よりもずっと深い。彼こそが紳士と呼ぶに相応しいだろう。
今までどんなに苦しくても、どんなに辛くても我慢してきた。
涙だって人前で見せたことなんて一度もない。
それなのに――……。
ラファエルの前では泣き虫になってしまう。
つまらない虚勢を張る必要がないと悟らされてしまう。
「貴方は意地悪ね……。わたし、いつもはこんなに泣き虫じゃないのよ」
「知ってるよ、君はとても強い女性だ」
ラファエルの親指が伸びてきて、頬を伝う涙を掬い取った。
メレディスは微笑を浮かべ、涙で歪んだ視界のまま彼を見上げた。
「とても感謝していますわ、ラファエル・ブラフマン伯爵。でもお礼をするほど、わたしは何も持ちあわせていないの……」
自分は没落貴族。今ほど何もできない人間だと思い知らされたことはない。
自嘲気味に笑った声は引きつっている。
どう足掻いてもラファエルと対等になんてなれやしないのだ。
「礼なんていらない。ぼくが望むことはただひとつ。君だよメレディス、君が欲しい。結婚しよう」
彼のプロポーズを聞いた瞬間、メレディスはしばらく動けず、息を呑んだ。彼の本心が分からずに何度も瞬きを繰り返す。
彼はメレディスを不憫に思って結婚を申し立てたのだろうか。