今宵は天使と輪舞曲を。

「そうね、泣いている暇なんてないわよね」
 メレディスは袖で乱暴に涙を止めると手綱を持ち直し、姿勢を低くして風の抵抗を少しでも軽くするのに務めた。すると暴れ回る栗色の馬を発見した。

 どうやらラファエルはまだ無事のようだ。手綱はもう持てないようで、落とされまいと首元に必死に食らいつくラファエルと、主人を振り落とそうとしているカインの姿が目に入った。

 その数メートル先にはグランが言ったとおり、道が見えなかった。崖だ。

 カインが崖に辿り着く前にどうにかして止めなければならない。

 しかしこのまま走っていても後ろに着くだけだ。最悪の場合、カインを追い詰め、自ら崖へ向かう恐れも出てくる。

 このままでは崖から転落するのを阻止するなんて到底できない。

 そこでメレディスはほんの少し右側に高い立地になっている場所を見つけた。脇道にはなるが、この方法でしか助けられないと思った。一か八かの駆けだ。

 メレディスはクイーンを操る手綱を右に引っ張り、横道を反れて彼女を斜めになっている高い場所へと誘導した。
 そこからはカインが弧を描いて走り回る様が良く見える。カインはパニックを起こし、四本の足がそれぞれの足の行く手を邪魔している。おかげで彼の速度がほんの少し落ちたことを見逃さなかった。

 メレディスが合図すると、クイーンは勢いよく駆け下りる。前足で地面を蹴って飛び上がれば、豊かなたてがみが風になびいた。着地の時に舌を噛みきらないよう口を閉ざし、震動に堪える。


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