今宵は天使と輪舞曲を。

 レニアは額に青筋を立てて怒っている。

 その傍らで、昨日一六の誕生日を迎えたばかりの末娘キャロラインはいつものことだと、目の前で繰り広げられている家族のやり取りを気にも留めず、大好きな小説に思いを馳せていた。


 籐椅子に腰掛けて鼻歌を口ずさむ彼女の声音は軽やかで、唯一穏やかな昼下がりらしいものだった。けれども彼女が平温に過ごせたのはそこまでだ。




 レニアは、いくら言っても取り合うことのない息子二人から怒りの矛先を末娘のキャロラインに向けた。


 彼女もまた、ブラフマン家に相応しい魅力的な女性へと成長した。

 二重のアンバー色の目は長い睫毛に縁取られており、肩まで伸びた茶色の髪は柔らかで毛先を遊ばせている。

 健康そうな肌は瑞々しい。まだ少女の名残がある丸みを帯びた輪郭。

 顔の真ん中にちょこんと乗った小さな鼻から目元にかけてはそばかすが散っている。


 中でも小振りな赤い唇が可憐さを引き立たせ、明るく快活で思いやりに溢れた優しい雰囲気を醸し出していた。

 そんな彼女もまた、やはりともいうべきか、欠点はあった。それも重大な欠点が――。



 彼女は現実世界よりも空想の世界に重きを置いているのだ。


 これでは上の息子二人となんら変わりないではないか!!



「キャロライン! 貴方も貴方ですよ。本ばかり読んで、まったくもう!」

「レニア、キャロラインは教養を培っているんだよ。何も読書は悪いことじゃないだろう」




 彼は、なあ、と末娘に笑いかけ、目尻に小皺を刻ませた。

 夫モーリスは二人の息子の後にできた末娘がとにかく可愛くて仕方がないのだ。


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