今宵は天使と輪舞曲を。
流石に体調を崩し、弱っている病人に向かって罵ったり怒ったりするのは良心に欠ける。メレディスはそこまで鬼にはなれなかった。
「オートミールにしましょう」
メレディスが口を開くと、ヘルミナは眉根の間に深い皺を刻み込んだ。どうやら彼女はメレディスの意見に反対のようだ。
「嫌よ! もっと……お肉とかそういうのが食べたいの」
けれどもヘルミナは怒る体力すらもない。彼女はため息をつき、静かに首を振った。
昨夜から戻し続けたヘルミナの胃は極度に弱っている。こんな状況で消化の悪い物を食べようものならさらに体力を弱らせるのが落ちだ。
けれども別にメレディスの体ではない。だったら彼女の願いを聞き入れればいい。そうしてお腹をこわし、さらに体調を崩して苦しめば、彼女が下した決断が誤りだったのかを自らの体を以て知るだろう。
それなのに……どうしても放っておけない。
メレディスもまた、首を振った。
意地悪な従妹に仕返しすらできない。結局、自分はどんなに頑張ったところで気の弱いひとりの人間なのだ。
自分のお人好し具合にもほとほと呆れてしまう。メレディスは諦めのため息をついた。
「そう。じゃあ仕方がないわ。叔母さまにこのことを言いつけて……」
「まって! わかったわ。貴方の言うとおりにするわ」
メレディスが叔母の名を出せば――罵倒を浴びせられるのはもう懲り懲りといったところだろう。彼女は慌てて同意した。