今宵は天使と輪舞曲を。

 メレディスは彼の申し出を受けると左腕を差し入れた。

 二人は、そのまま呆気に取られている様子のピッチャーを通り過ぎた。


「ミス・メレディス」

 ルイス・ピッチャーからの立ち去り際、呻るような野太い声がメレディスを責める。その声は地響きにも似た低い、恐ろしい声質だった。
 彼の鋭い視線を受けたメレディスの背筋が冷たく凍る。

 しかし幸いにもパニックを起こさずにすんだ。

 今のメレディスにとって、ラファエルという男性の存在が何よりも救いだった。


 彼はなんて力強いのかしら。
 力強い腕も分厚い胸板も――彼の存在自体が雄々しく感じる。


 ラファエルがいなければピッチャーの剣幕にも勝てなかっただろう。彼の存在はメレディスにとってとても大きな影響を与えていた。



 ドナルド・グスタフ邸の庭は湖に面していて、庶民的で皆がくつろげるようにと様々な細工が施されていると言われていると貴族たちの中では専らの人気だが、今のメレディスにとっては広大な景色をゆっくり眺めるほどの余裕はなかった。ただ分かるのは、たとえ夜であっても視界がはっきり見られるようにと一定の間隔で設置された照明があるということだ。


 メレディスは、自分を非難する貴族たちの目がなくなったのをこれ幸いと、文字どおりラファエルの手からワイングラスを奪い取った。それからひと息に流し込む。


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