大江戸妖怪物語
「え、僕・・・気を失ってた?」
「ああ、数秒間ボケーっとしたと思ったら、急に倒れ込んでな」
「ああ、そう・・・。ごめんね、じゃあ、河川敷にでも向かおうか」
僕と雪華は神社の鳥居を出て、川へ向かい歩き始めた。江戸には水路のような川がたくさん流れているが、会場はとても大きく雄大な川が流れている。
「うわー・・・。大勢の人・・・」
河川敷にはたくさんの人がいた。親子連れ、カップル、子供たち・・・。
「こんなに人がいるんじゃ、不動岡さんも警備が大変だね」
僕らはちょうどいい土手を見つけて座り込んだ。
桜がちょうど散った季節。地面には花びらの絨毯が出来ていた。
「花火が打ちあがるまであとどれくらいだ?」
「今が七時だから、あと一時間後だね。思ったより早く着いちゃった」
わいわいと賑わう一帯。人もどんどん増えてきている。
「おお、紅蓮の神門くんじゃないかい!」
「あ、お得意先の森谷さん」
「いやー。あの刀いいよ!」
ここに座っていると、やたら店の常連に声をかけられる。
嫌ではないがちょっと恥ずかしい。
「あ、すまん神門、不動岡から連絡が来た」
「・・・じゃあ休日終了??」
「・・・いや、思ったより楽しいからな。写真と情報だけ貰って、・・・明日から調べよう。そして・・・今日は楽しもうか」
雪華はそういうと照れくさそうに少し笑った。僕もつられて笑う。少し、僕の胸が高鳴った。
「不動岡は先の橋にいるらしい。まあ持ち場を離れさせるのもあれだからな、私が今から行ってくるとしよう。神門はここにいろ」
「いってらっしゃーい」
そういうと雪華は土手沿いを歩いて行った。
「雪華もちょっとは・・・素直になってくれたのかなぁ・・・なんてね」
自嘲気味に笑う。
「眸も花火、見るのかな」
ふと思った。
・・・
「どうも、写真と情報を頂きに来ました」
「そりゃおつかれだな。・・・で、例の被害者だが、江戸付近の関所のから百メートルのところで遺体が発見されたんだそうだ。で、これが写真と情報」
雪華は不動岡に一枚の紙をもらう。
そこには見目麗しく、そして育ちの良さそうな女性の顔。
「こんな美人な人が・・・。かわいそうに」
雪華は情報に目を通した。しかし、被害者の名前の欄を見た時だった。瞼がちぎれるかとばかりに目を見開いた雪華。
「どういうことなんだこれは」
雪華の手が震える。
そして雪華はすぐさま走り出した。
「・・・なんか気になることでもあるのか」
「ええ、あるわ。大アリよ」
雪華はダッシュで神門の元へ戻っていった。