大江戸妖怪物語
ひ、眸?眸が・・・なぜ?
「わかったか?作間眸・・・彼女は本来、“居てはいけない人物”だった。そもそもこの江戸にいるはずがない人物だ。なぜなら・・・彼女はすでに死んでいるからだ」
全く情報が理解できない。眸は、死んだ?死んでいた?二週間前に?
じゃあ僕たちの目の前にいた眸は?彼女はいったい―――――・・・?
「ま、まさか幽霊?」
僕は恐る恐る聞く。
「幽霊なわけない。その写真の女性と、私たちが現在会っている作間眸は容貌がまったく異なる。そしてその写真の女性なら、あんなふざけた口の利き方はしないだろう」
雪華は手のひらを顔にあてた。
「フフ・・・私としたことが情けない。目の前の獲物さえ見過ごしていたとは・・・」
「・・・雪華・・・あの、これはどういう・・・?」
「―――――――――― 気づいちゃったのね。ワタシの正体」
後ろから冷たい霊気を含んだ声が聞こえる。
そこにいたのは眸だった。
「バレないと思ってたのにね。そのままアンタの目玉を食べて不死身になりたかったのに」
眸の口調は別人のようだった。
冷たく放たれるその声色。それは・・・。
「妖怪・・・ね。アンタ」
雪華は眸に向かい氷刀を向けた。刀の刃から冷気が出ている。
「アハハ。ご名答。まさか神門の近くに雪女がいたとはね。アンタさえいなければ、神門なんて影だけで殺せたのに」
眸は顔に手を当て高らかに笑った。
「眸・・・なんで?でも眸は以前の僕のことを知っていたじゃん・・・」
「ああ、そのこと?それはね、私が妖怪だからだよ」
「それは、・・・ッ・・・理由になってない」
(認めたくない)
認めたくなかった。僕を昔、助けてくれた眸が妖怪?邪鬼?信じたくない。
「神門は認めたくないけどさ、アンタと昔仲良くしてやってた作間眸は死んだ。私は作間眸の記憶を頂いただけさ」
僕には理解できなかった。
「まぁ、わかりやすい方法教えてあげる」
そういうと眸は自らの右目に手を当てた。そして眼球を引き抜く。
「ひッ・・・!」
しかし眸は何事もなかったかのような表情。目玉をクルクルと弄ぶ。
「今入ってるのは作間眸の眼球。この眼球を通じて、その人が見たもの・・・記憶を手に入れることができる」
眸はその眼球を元に戻した。そしてどこからか出した眼球を口に含んで食む。
「んで、好物は人間の眼球♡おすすめは水晶体」
ニタリと笑う眸。
「ザコ妖怪が。私に逆らうとどうなるか、わかっているのだろうな」
雪華は冷たい顔のまま、眸に問いかけた。
「そりゃあもちろん。アンタみたいな地位のやつに敵うとは到底思ってないわ。・・・秘策はあるっちゃあるけどね」
眸はニヤニヤと、裏があるのかわからない顔だ。