大江戸妖怪物語

「お前の目的は何だ。そして何故江戸に来た。答えろ、さもなくば直ちに斬る」

「目的ねぇ・・・。元々は江戸に来て、人を食い殺そうとは考えてなかったわね。・・・あの時までは」

「・・・あの時?」

訝しげな顔をする雪華。
眸は続ける。

「作間眸を食い殺した時よ。彼女の眼球には素晴らしい記憶が入っていた。不死身の眼球を持つ者の記憶が!本物の作間眸には見えなかっただろうけど、私にはオーラが見える。不死身の眼球のオーラがね」

眸は舌なめずりをした。とても恐ろしいその顔で。

「それを持っていたのはそこにいる・・・紅蓮神門、お前だ。」

「えぇ?!ぼ、僕ぅ?!」

「絡新婦もお前の体を狙っていたのだろう」

クククと笑う眸。

「眸・・・そんなわけ・・・」

「ああ、それから、その“眸”て呼ぶのやめてくれる?私の名前は目玉しゃぶりっていうの♡」

「目玉・・・しゃぶり・・・?」

(随分ストレートな名前だな)

まあ妖怪なんてそんなものか・・。大抵見た目とかで名前つけられるもんね。雪女もそうだけど。

「やはりな。お前の犯罪の手法・・・。相手に箱を届けよと頼み、その箱を届け忘れたり中身を見たりする奴を殺し食うやつだな。私としたことが迂闊だった。お前という妖怪がいたことを忘れていたよ。底辺妖怪はあいにく興味がないものでね」

絡新婦は貶され憤ったが、眸・・・否、目玉しゃぶりは全く動じない。

「底辺妖怪・・・ね。その呼び名、面白いわね。でも、その底辺妖怪に出し抜かれたら、雪女の雪華、あなたはもっと底辺な妖怪になるわ」

眸は落ち着いていた。まったく、動じず。

「出し抜く?何を言っているのだ貴様・・・」

「時限爆弾」

眸は満足そうに笑う。

「時限爆弾、仕掛けちゃったの♡」

・・・・・・

「時限爆弾?!お、おい!どこに仕掛けた眸・・・じゃなくて目玉しゃぶり!」

僕は動揺した。まさか自分の地面の下?!?!地雷?!

「・・・まあ、目玉しゃぶりって言いづらいなら眸でもいいけどお。ここには仕掛けていないさ。仕掛けたのは花火の打ち上げをする火薬庫に」

僕は民衆が集まる河川敷に目をやる。そこには今か今かと花火の打ち上げを待つ人々がいた。

「まさか、人々を巻き込む・・・と?」

「だいせいかーい!たくさんの死人が出ること間違いなし。火薬庫が爆発なんてしたら、まず河川敷の人間は死ぬだろうね。そして河原から民家へ燃え移って、大火事になるんじゃなかろうね。死体がいっぱい完成したら、好きなだけ目玉を食べていいんだよね?ね?」

悪気なく眸は笑う。楽しそうに、楽しそうに。

「時限爆弾を止める方法はないのか?」

「あるっちゃあるわ」

眸は人差し指を一本立てた。口裂け女のような口元、不敵に笑う唇。

「紅蓮神門、お前の眼球をよこせば爆弾を止めてやろう」

「え?」

あまりにも無茶な要求だ。それだけは、できない・・・。
でも僕の命を犠牲にすれば、江戸の民が救われる・・・

「神門、あまりこいつの話を聞かないほうがいい。こいつのことだ。お前の眼球を手渡したところで民の大量殺戮はやめないだろう」

雪華が迷う僕を一喝する。

「あれぇ?バレてた?」

「ふん、見え見えだ。・・・お前を倒せばいいのだろう・・・。花火の打ち上げが始まる八時までに」

「だけど、間に合うかなぁ。あと十五分だよ?あきらめて逃げれば?」

眸はシッシッと手を振り払う。

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