大江戸妖怪物語
「完璧な体になると爪も脆くなるのね。意外ね」
雪華は近づき、首を刺す。
「グウウ・・・ッッ!!」
「さてと、目玉しゃぶり。お前にも終わりの時間が来たようだ」
雪華は刀をクルクルさせながら近づく。
「くらえ・・・。氷刃花弁・・・」
雪華は刀を大きく振り上げ、そして振り下ろした。刀が地面と接した瞬間に、地響きのような音がなる。衝撃波のような氷の波が、一直線に眸へと進んで行く。
「きゃああああああ!!!!」
眸の体は氷の波の餌食となった。眸の体は吹き飛ばされ、さらに後ろの川は凍結した。川から生えた逆氷柱は月明かりに照らされ乱反射していた。
眸の体は宙高く舞っている。口から血を吐きながら・・・。雪華は逆氷柱を駆け上がる。そして雪華も舞う。雪華と眸の二人の影と、月が重なる。影絵のようなその光景に僕は少し見とれていた。
影絵を見ていると、大量の黒い飛沫が眸の体から放たれた。それが血なのは誰が見てもわかる。
地面に落下した眸、着地した眸。雪華は腕の水晶を眸の前に出した。
「お前には・・・地獄にて罰を受けてもらうからな」
「それって、絡新婦も吸収された・・・?」
「嫌だ、地獄には行きたくない・・・!」
「お前が差し向けた影たちもすべてあちらの世界へと送っておいた。お前だけ行かないなどありえないだろ?」
「・・・ね、ねえ。雪女さん!私これから更生するからさ、逃がしてくれない?もちろん時限爆弾だって解除するし、この江戸からも出てく。それでいいでしょ?」
急にご機嫌取りを始めた眸。しかし雪華は表情ひとつ変えることはなく、ただ目の前に座り込む邪鬼を見据えている。
「・・・全ては行いで決まる。安心しろ。お前の罪ならば、人間界の時間で5京4568兆9600億年ほど耐えれば次の世界に生まれ変われるはずだ」
「5京4568兆9600億年ですって・・・・・・・?イヤ、そんなのイヤよ!!」
「これでも八ある地獄のなかで六番目のレベルなんだ。よかったじゃないか、八番目じゃなくて。といってもお前が受ける地獄というのは、簡単に言えば永遠に火炙りにされるというお手頃なものだ。よかったな」
「ひ・・・火炙り!イヤよ、行きたくない!いままで私が生きた時間ですらとても長かったというのに・・・そんな長い年月、耐えられるわけないじゃない!」
「もう、お前はダメなんだ。さらば、大罪人」
水晶から光が放たれ、眸の体の周りを粒子となり包み込む。
「やめて、お願い!!!」
眸は泣きじゃくった。しかし雪華はやめない。
「人間に危害を与える邪鬼を駆除するのが私の仕事。・・・もうお前は遅かった」
眸の体が粒子で見えなくなった。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!」
それが最後の眸の声だった。眸の体の形が無くなる。そして砂時計が残った。雪華はそれを拾った。
「神門、急がなくては。八時まであと一分しかない。はやくしなければ爆発する」
「そっか、はやくしないと!」
僕らは人ごみあふれる河川敷に向かった。