大江戸妖怪物語
その眼球を持ち上げたとたん、眸の表情が強ばった。
「・・・な、なにをしてるの」
「・・・神門、お前、目を抉りたいか?」
真顔で雪華は聞いてきた。
「嫌に決まってるだろーが!」
「そういうと思った。神門・・・」
雪華は顔を僕の耳に近づけ、ボソッと呟いた。
「・・・後ろから、あの妖怪を羽交い絞めにしろ」
「へ?」
「さっさと行け」
雪華に蹴り飛ばされ、僕は眸と対峙する。
「・・・別に、殺されなきゃいいのよ・・・そうよ・・・」
眸は目が泳いでいる。
「・・・雪華がいうから・・・ごめん!!おりゃあ!」
僕は眸の眉間に太刀をブッ刺した。生々しい頭蓋骨の割れる音が、そして脳みそを貫通する音が聞こえ、それが感触として伝わる。
「グッ・・・」
さすがの眸もこの攻撃は効いたようで、二、三歩よろけた。
僕は空かさず太刀を抜き、背後に周りこみ押さえ込んだ。
「やめ・・・ろッ!!」
羽交い絞めされている眸に近づいた雪華。次の瞬間、脇差を眸の眼球に刺した。そして本当の眸の眼球を視神経から抉りとる。
あまりの光景に僕は目を背けた。
何かが落ちた音がしたが、必死で聞かないようにしていた。聞いたら夜眠れなくなる・・・。
雪華はえぐった眼球の部分にその真っ赤な眼球を押し込んだ。右目と左目、両本眼球を押し込む。
そして雪華はニヤリと笑った。
「おめでとう。これで“完璧な”体になれたな」
「ヒッ・・・」
眸は僕から逃げ出そうと踠く。
「離せ・・・!離せって言ってんだろ!」
「ギャッ」
眸は長い爪で僕の首の後ろを引っ掻いた。そして僕の腕から逃げ出した眸は、自らの眼球を出そうとする。
「外れない、外れないぃぃぃ!!!」
眸の眼球は外れなかった。
「使えるわね。これ」
雪華がそう言って取り出したのは・・・
「接着剤って便利ね」
「まさかの接着剤で取り付けとるぅぅぅ!!絶対に用途間違えてますよぉぉ?!?!」
「これは眼球用接着剤なのか・・・。うーん素晴らしい」
「それ木工用ボンドだけどォォォォ?!?!目玉は木じゃないからね?!?!」
「取れない。取れないよおおおお!!」
眸はまだ取れないようだ。苦戦している。
(木工用ボンド・・・強し・・・ッ!!)
「さて・・・。おい目玉しゃぶり。お前・・・不死身なんだろ?試しに私に刀で刺されてみない?」
雪華は不気味な笑みで眸に近づく。刀を手でポンポンと叩く。
眸の顔は真っ青になった。口元がガクガクと震えている。
「死なないならー・・・頚動脈あたり斬ってもいいよね?」
「雪華・・・今の表情は邪鬼より悪い顔してるよ・・・」
「・・・ふ、ふん!死ななきゃいいんだ・・・。殺されなきゃいいんだ!来いよ雪女!!」
眸は大声を出し、雪華に迫る。風を切る音が聞こえてくる。眸が右腕を大きく振り上げ、雪華を斬りつけようとした・・・が、刀で受け止められる。
「氷河礫」
雪華が呟くと刀から白い冷たい気体が出てきた。みるみるうちに眸の爪は凍結していく。
そして凍結した爪を雪華は刀で切り落した。氷で凍らされているせいか、爪が簡単に落ちていく。
「どうして・・・どうして・・・・?」
眸は余裕のない表情。