大江戸妖怪物語
「まあ、僕は殺しとかはダメだからね。まずは第一裁判所へ行かないと・・・」
「第一裁判所?」
「だってそうでしょ?君、死んで間もないなら裁判しなきゃ。・・・もしかして、地獄の苦行から逃げてきたとか?」
男の笑みが更に恐怖に感じる。
「それじゃあどうする?どのコースがいい?針山?火炙り?釜茹で?」
「えっと・・・逃げるが勝ちッ!!」
僕は隙をついて、階段を駆け下りる。
「逃がさないよ」
僕の足が浮き上がる。そしておおきなシャボンのような中に閉じ込められる。
叩いても割れない。
「こっから出してください!お願いします!」
「んー・・・。やだ」
(笑顔で言うな―――!)
「不法侵入者はちゃーんと罰しなきゃね」
(どどどど、どうしよう・・・)
僕は慌てふためいた。
「感謝してよー?秦広王ならブチギレしてるところだよ?」
(秦広王・・・どこかで聞いた名前だな・・・)
「だから、僕が見つけてあげたことに感謝してよねー!」
「ちょ・・・誰かァ!!」
「・・・何をしているのだ泰山王」
後ろから聞こえるのは、あの声。もう救いの女神の声にしか聞こえない。
「あれ?雪華ちゃんじゃん。久しぶり」
「雪華!・・・・・・・って、うぎゃあああああああ!!」
シャボンが弾け、僕は綺麗に落下した。
「・・・いってええ!」
「何してるのって言われても、侵入者を罰しているだけだよ」
「あいつは私と一緒に邪鬼退治をしているのだ。侵入者ではない」
「え、そうなの?アハハ。ごめーん」
泰山王と呼ばれたその人は僕にてへっと謝罪した。
僕は二人のもとに近づく。
(絶対この人反省してないな・・・)
背中を摩りながら僕は聞いた。
「・・・雪華、知り合い・・・?」
「僕は泰山王っていうんだ。これからよろしくね」
少年のような屈託のない笑顔。
「・・・紅蓮神門です。こちらこそよろしく・・・」
(王・・・?閻魔王とどっちが偉いのかな)
「そっかぁ。神門くんて言うのかー。僕、神門くんのこと好きだー」
「へっ?!」
「恋愛感情とかじゃないよー?なんか可愛いー」
そういうとゴソゴソと何かを取り出した。取り出されたのはクッキーだった。
「あげるー」
「あ、ありがとうございます!」
僕はクッキーを頬張った。その瞬間僕の口の中は、崩壊した。
「辛ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
あまりの辛さに僕はひっくり返った。その瞬間階段から滑り落っこちる。
「いったああああああああああああああああああああああ!!!!!」
僕は派手に転がり落ちる。挙句に舌はヒリヒリするし、・・・いててててててて!!
舌のヒリヒリが止まらない。
しかし、当の原因を作った泰山王は悪びれる様子もなくケラケラと笑っている。
「これなんですか泰山王さん!」
「ん?激辛クッキー」
「それはわかってます!!」
僕はヘロヘロになりながら、階段を上る。
「神門、お前愛されてるな・・・」
「どこが?!」
「ああもう、可愛いなー神門くん」
「先に行っておいたほうが良かったな。こいつは・・・ドSだ」
「・・・へっ?!」
ド・・・S?
「こいつは自分のお気に入りを虐めて虐めて虐め尽くすのが好きらしい」
「だって神門くん可愛いもん」
(可愛いのか?・・・僕)
「それより、口大丈夫?ごめんね、変なもの食べさせちゃって」
「い、いえ・・・」
「これ牛乳!辛いものを食べたあとに飲むと、辛さが引くんだって!」
「ありがとうございます」
僕はコップに入った白い液体を飲み干す。
「・・・酸っぺえええええええええええええええええええええ!!!!」
「特製、大量クエン酸入り牛乳だよ!ああ、その顔!イイ!可愛いよ神門くん!」
「変態ですね?!あなた変態ですね?!?!」
「二度も策に引っかかるなよ・・・」
雪華が呆れたように呟く。
「泰山王、これから神門は上野の国まで行くんですよ。あまり疲れさせないでやってくれますか?」
「もうクタクタ・・・」
僕はため息をつく。
「疲れちゃった?肩もみするよ?」
「あ、お願いします」
僕は泰山王さんに背を向けた。
「・・・痛い痛い痛い!!!!」
(泰山王さん握力強すぎ)
「うんうん。その痛みに悶絶する感じ可愛いと思う」
「三度も引っかかるなよバカが・・・」
雪華は腕組みし、呆れていた。
「すみませんね泰山王。私たちもう行くんで・・・」
「そっか。残念だなー。もっと神門くんで遊びたかったのに」
「さ、さよならー・・・」
雪華は先ほどのブラックホールのようなものを出した。冥界への出入口なのか?
「ばいばーい!神門くん」
「もぎゅッ!!」
僕は泰山王に背中を蹴飛ばされ、そのままブラックホール、冥界の出入り口に吸い込まれた。
「うぎゃッ!」
気づくとそこは居間。。泰山王さんに蹴られたため転がるように居間にいた。